丑の刻Ⅵ
危険を承知で二手に分かれるか、それとも全員で突入して救助を行うか。或いは、村人を見捨てるか。ここにいるメンバーの答えは最初から決まっていた。
「全員で行きましょう。桜が結界を張れる間は活動できるはずです」
「仮眠もとって、魔力も十分です。お札も追加で何枚か作ったので、昼間に見た程度のものなら、十回以上は防いで見せます」
勇輝と桜の言葉に継司が小さく頷く。
「俺も微力ながら力になります。万が一の時には、俺が何とかします。もしも、結界が作れなくなった時には一声かけてください」
「何か秘策があるのならば、二手に分かれるのも良いのではないですかな?」
「いえ、あくまで一時しのぎ。本職には到底かないません」
午式の提案を継司は、すぐに首を振って否定する。
曰く、「一、二回誤魔化すことができればいい程度の児戯に等しい小細工」だとか。あるかないかで言えばマシ程度だと言われ、午式は勇輝に視線を向ける。
「勇輝殿は自分の結界があるんでしたな。周囲の警戒は拙者たちに任せて、呪術のやってくる方向を探すことに注力を!」
「もちろんです。呪詛返しの前の呪いが飛んでくる方角を確実に捉えて見せますよ」
花火のように呪いがまき散らされる前は、一つの塊であった。それを考えれば、術士が放ってから寛太の所に辿り着くまでは誤魔化しが効かない。それ故に、そこから逆算すれば犯人の位置を見つけ出すことが可能なはずだ。
「仕方ねえだ。こうなったら、全員で固まって移動だけんど、あまり無茶はするんじゃないだよ!」
その言葉を皮切りに、この場に立っていた全員の雰囲気が変わった。
体の中に魔力を巡らせ、身体能力を大幅に向上させる。村人を救うのにも、自分たちの命を危険にさらす時間を短くするためにも、可能な限りの迅速な行動が要求されていた。誰もがそれを理解し、同時に階段を跳び下りるように駆け出す。
「勇輝殿。ここから一番近い被害場所は?」
「村の中心から手前二十戸くらい!」
「ひひん。意外と範囲は狭く済んだようですな。逆に寺の方にかなりの量の呪いが、引き寄せられたように思えたのが疑問ですぞ。一体、何に――――」
午式が僅かに背後の寺を振り返る。そんな中、勇輝と同じように先頭を走る丑式が、少しばかり不機嫌そうに声を飛ばした。
「午式。今は目の前のことに集中するだ! 寺の中は安全だと確認が出来ているだよ」
「ひひっ。わかりました。わかりましたとも。勇輝殿、その建物が見えてきたら教えてくだされ。拙者が全力で中の安全を確認、確保しますので」
頼もしい言葉に勇輝は笑みを浮かべる。
そんな最中、勇輝の魔眼に再び黒い靄が一筋空を駆けて行くのが映った。
「また呪いが! 今度も寛太さんの家の――――!?」
靄がちょうど村の中心まで来た辺りで、唐突に停止した。いや、方向を変えて、勇輝たちの方へと向かって来ていた。
「呪いがこっちに!」
「もうこっちの位置を補足されただか!? 嬢! 結界を!」
勇輝の驚愕の声に反応して、丑式が桜へと指示を飛ばす。それを受けて、桜は人差し指と中指で挟んだお札を前へと放った。
本来ならば、花弁のように地面へと舞い落ちるはずのお札は、まるで矢のように勇輝たちの前へと躍り出る。仄かに白い光を煌めかせると、それらが花開くように進む先へ壁となって展開された。
黒い靄は音もなく白い壁に弾かれて、先程のように上空へと昇り、各地へと飛散していく。
「今度の呪詛返しも変な方向に広がったみたいなんだな。一番近いのは?」
「村の中心に近いのは間違いありません」
「だったら、そっちに行くしかないんだな!」
金棒を担いだ丑式は、重そうな足音とは真逆で、さらに加速する。その中で、勇輝は僅かに顔を顰めた。
「(今の散らばり方、最初の時とは全然違う方に弾けたな。相変わらず寺の方に向かって行ったのは変わらないけど、村に落ちて行ったのは範囲がさっきよりも狭い?)」
何か原因があるのかと疑問を抱きつつも、勇輝は丑式と午式に遅れないように速度を上げた。
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