紅の輝きは何物にも染まらずⅦ
僅かに呻き声をあげると、フランは自分を覗き込んでいる人たちを見回して呟いた。
「あれ? なんでみんないるんですか?」
普段と変わらない様子の声に皆一様にほっとする。その中でフランだけが何があったかを覚えていないようだった。
ただし、三日も寝ていたせいなのか、その声は僅かに枯れているように聞こえている。
「体調はどうですか? 何か体に違和感を感じるところは?」
「痛いところは、ない?」
リリアンとアイリスが矢継ぎ早に話しかけると、フランは目を閉じて考え込んだ。しばらくして、目を開けると、おもむろに言い放った。
「お腹が……空きました」
何と反応していいか、わからないでいると真っ先に反応したのはリリアンだった。
「そうですか。まずはオートミールから始めた方がいいでしょう。久しぶりの食事でお腹がびっくりしてしまうでしょうから。厨房に何か残っていないか、聞いてきます。ここはあなたたちにお任せしますよ」
そう言ってリリアンは踵を返すと通路へと引き返していった。コツコツと床に響く音は、この部屋へ訪れるときと全く変わらないのに、何故か軽快に聞こえてくる。
「とりあえず、このまま待っておいた方がいいのか?」
マリーが疑問を口にしているとリリアンと入れ替わるように、ロジャーとエドワードが部屋へと入ってきた。
「ほう、上手くいったか。重畳重畳。やはり、何かやる奴だとは思っていたが、ここまでやるとはな」
「…………」
ロジャーとは対照的にエドワードは目の前の光景が信じられない、とでも言いたげだ。
「ふむふむ、まぁ、聞いていた話と若干違うが、結果良ければすべてよし。失敗も成功の内よ」
ロジャーはというと、言っていることが全く要領を得ない。ユーキたちに話しかけているのか、それともエドワードなのか。それとも只の独り言なのかすら判別がつかなかった。
「鉱石の魔力も無限じゃありません。そういう意味では一時しのぎにしかなりません」
ユーキが呟くと全員の顔に影が差す。
そう、魔力の貯蔵量は有限。仮に新たに魔力を詰め込むとしても、火の魔力単体で注ぎ込むのは非常に難しい作業になる。エドワードの言っていた魔力操作を極めた者など――――
「――――あっ!」
ユーキは思わず声を上げた。一番身近に魔力を注ぎ込むことができる人物。灯台下暗しとは、まさにこのことだった。問題は火の魔力を単体で生成する方法だけである。
「火の魔力を作り出す方法さえ、わかればなんとかなるかもしれませんが……」
「人間の魔力はどれにも属していない。けど、魔法を使うために励起させると指向性が生まれて与えることができなくなる」
作った魔力を渡すことは難しい。なぜならば、その魔力には「火を灯せ」などと既に結果が入力されているからだ。それに逆らってしまえば魔力を余計に消費してしまう。
「なるほど。魔力操作には自信があるということか。ならば話は早い。その鉱石へと無理矢理魔力を通せば、火の魔力に変換してくれるぞ」
ロジャーが笑って鉱石の方を指し示すと、エドワードが慌ててその手を両手で下ろさせる。
「し、師匠。そう簡単に錬金術の秘奥を開帳されては……」
「なーにが秘奥だ。人の役に立たない秘奥なんぞ、ただの土より価値がないわ」
エドワードを押しのけるとロジャーはユーキの前にゆっくりと進み出た。その表情は早くネタ晴らしをしたくてたまらないといった風に見える。
「鉱石の中でも随一の火の魔力を宿すのはルビーだ。どのような魔力を受けようとも、必ず火の魔力に変換する。それがルビーのもつ特性。あの鉱石をもってきたのは間違いではなかったというわけだ。わしの友人にも会えただろう?」
ニヤッと悪戯小僧のような笑みを浮かべると大笑いをする。
この錬金術師、ユーキたちがフランのために動いていることも何もかもをお見通しで、あのドラゴンのいる洞窟へと向かわせたのだろう。そうだとするならば何という切れ者だろうか。
冒険者ギルドで声をかけられたとき、一瞬で彼の頭の中には、この結末に辿り着くビジョンが見えていたに違いない。少なくとも、勇輝はそう考えた。
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