温泉Ⅳ
勇輝は改めて桜の腕を取る。
お湯をかけると肌が水を弾き、魔法石から放たれる光を跳ね返す。袋を二の腕当たりに当てると柔らかく、それでいてしっかりと押し返して来ていた。ぱっと見でもわかる肌のきめ細かな様子に、むしろ、持っているものを押し当てて擦る必要もないのではないかと思ってしまう程だ。
「痛くない?」
「うん、大丈夫。もう少し強くてもいいかな」
勇輝からは見えないが、何となく雰囲気から桜が微笑んでいるのが分かった。
彼女に言われた通り、少しだけ手に力を籠め、腕の先へ先へと擦って行く。袋が通った後は、独特な感触が残るが、そこを流すと剥きたての卵のような肌が姿を現す。
「桜って、肌も髪も綺麗だよな」
「え、どうしたの急に!?」
「いや、俺が元いた世界の人たちも綺麗な人はいたんだけど、こっちの人たちは比べ物にならないって言うかさ。その中でも桜は髪の艶いいし、肌にもシミ一つないから。男の俺からしても羨ましいくらいでさ」
そう言って勇輝は自分の二の腕や肩辺りに視線を向ける。
小学校の頃から外で泳いでいたこともあり、黒子やシミがあちこちにできていて、指を這わせれば凸凹とした感触が残っている。それは自分が強くなるために必要なことであったと受け入れているが、時々、「そうでなかったら」と思うことがあった。
「と、特に意識していることはないはずなんだけど……。もしかして、あれかな? 身体強化の魔法とかで体が綺麗な状態に保たれてるとか」
「それだったら、凄い魔法使いほど髪や肌が綺麗ってことになるな」
「意外と間違っていないかも。マリーのお母さんとか肌がもちもち、ぷるぷるだったから」
ファンメル王国における蓮華帝国の壁となっているローレンス領。その辺境伯の妻にして、元宮廷魔術師。その実力は体液で土地を殺すと言われるバジリスクを燃やし尽くすほどに凄烈である。
果たして、世にその全力の魔法を凌げるものが何人いるか。少なくとも、勇輝たちはそれをローレンス伯爵以外に知らない。
「勇輝さんと会ってからファンメル王国にいたのが、ほんの数ヶ月だったなんて。少し夢みたい」
「それを言ったら俺の方もだよ。こっちに来てから驚くことばかりだったからね。今もこうして事件解決に動いていること自体が信じられないし」
勇輝は桜の背中を洗いながら苦笑する。
いくら自分の先祖が山に潜む妖を相手に大立ち回りをしていたことがあったとしても、まさか、自身がそんな化け物相手に戦うことになるとは思っていなかった。ましてや、そこが魔法が飛び交う異世界であればなおさらだ。
「勇輝さんのいたところは、あまり魔法とかがなかったの?」
「公然と使う人はいなかったね。もしかしたら、人の目の届かない場所で使っている人はいたのかもしれないけど……。よし、終わった。後は――――」
桜の背中を洗い終え、勇輝は手を宙に彷徨わせたまま硬直する。まだ、身体の大半は洗っていないが、勇輝が洗おうとするには、かなりハードルが高い部位になる。
勇輝が手をこまねいていると、桜が肩越しに振り返った。
「勇輝さん?」
「いや、ある程度洗ったんだけど、他の場所だと、さ……」
勇輝の視線に気付いたのか、桜の表情が強張り、視線が彷徨い始める。
「え、えっと、その、する?」
「す、する、と言うのは?」
「こ、このまま、続き」
そう告げた桜は、手拭いを摘まんでわずかに持ち上げた。引き締まり、程よいくびれのできた脇腹から先。それが勇輝の目に飛び込んでくる。
「そ、その、私は、大丈夫だよ? 勇輝さんが、したいなら」
「じゃ、じゃあ、お言葉に甘えて――――」
改めて正面を向いた桜の後ろから手拭いの下に手を差し込む。腕とはまた違う柔らかな感触に勇輝の心臓が大きく跳ねた。
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