第二の被害者Ⅵ
気持ちが逸る中、勇輝たちは再び、聞き込みを開始した。しかし、依然として芳しい回答は得られない。
仮に答えてくれたとしても、それは晴久がどんな人物であったかや、どんな仕事ぶりだったかを語るくらいだ。交友関係を尋ねても、寛太のかの字すら出てこない。
「ここまで口が堅いとなると、何か別の力が働いているようにしか見えないな」
勇輝は話を聞いていた老婆を肩越しに見ながら呟く。
本当に知らないのか、それとも、知っていて黙っているのか。全く見当がつかない。そうこうしている内に、時間はどんどん過ぎていき、気付けば陽が傾き始めていた。
「ひひん、なかなか有益な情報が集まりませんね。勇輝殿の言う通り、あまりにも口が堅いですぞ。もしかして、拙者たち、余所者として警戒されているのでは?」
「いえ、そうだとしても、度が過ぎています。そもそも開藤家の方がいるのに、協力する姿勢が見えないこと自体がおかしいのです」
厘が憤りを堪えた様子で告げる。傍目から見ると頬を膨らませている少女にしか見えないが、近くにいる勇輝たちは、明らかに彼女が殺気にも近い圧を放っているのが見えた。
「四方位貴族やその家臣団のことを何だと思っているのか。腹立たしくて仕方ありません」
「まぁまぁ、厘ちゃんも落ち着いて。本当に知らないだけかもしれないし」
「桜さん。私はこれでも西園寺家の隠密の修行をしている身。確実とは言えませんが、それなりに嘘を見破る鍛錬もしてきております。今まで聞いて回った人たちの大半は、何か隠し事をしています」
だが、その隠し事が何かまでは厘でも見抜けない。それこそ心や記憶を読む力が無ければ不可能だ。
「いや、理由は何となくわかります」
そんな中、継司は風の髪をなびかせながら振り返った。
「寛太殿と同じです。話せば次に自分が呪い殺される。その恐怖で何も言えなくなっているのかもしれません」
「では、聞き方次第では私でも相手の動揺を誘って特定することが出来そうです。そうですね……とりあえず、首無し武者とそれ以外の術者に絞って聞いてみますか?」
厘の意見に反対する声はなく、すぐに勇輝たちは先程話しかけた老婆の下へと戻る。
当然、訝しげな顔をして老婆は勇輝たちを睨んだ。
「何だい? まだ何か聞くことがあるのかい? 悪いけど商売の邪魔――――」
「この村の近くに出現する亡霊。首のない武者について、何かご存じですか?」
「――――ひっ!?」
瞬間、厘でなくても老婆が狼狽えたのがわかった。
みるみる顔が蒼褪めて、老婆は体を震わせながら手を合わせる。両手を擦るようにしてお経のような物を唱えながら、身体を前後に揺らし始めた。
「お、お婆さん?」
心配した勇輝が声をかけるが、老婆は耳には届いていないようだ。或いは、届いていても聞こえていないフリをしているのかもしれない。
しかし、厘は首を横に振って一歩下がった。
「ダメ、ですね。話になりません。でも、これは演技とかそういうのではなく――――」
「本当に怖がっている、と?」
継司の問いに、厘は小さく頷いた。
勇輝たちが数歩離れて見ても、その行動は止まることを知らず、道行く他の人々も何事かと視線を投げかける人がいるくらいだ。
「何かを刺激してしまったみたいですけど、仕方ありません。他の人に話を聞いてみることにしましょう。二度目の質問になってしまいますけど、致し方ありません」
「んだ。でも、気を付けねーとな。あんなに取り乱しちまうとなると、他の人にも安心して聞けないだよ」
丑式の指摘は全く以て正しかった。
ある人は老婆のようにお経を唱えだし、またある人は手の届くところにある物をなりふり構わず勇輝たちに向かって投げて来た。もちろん、何もしてこない人もいたのだが、あまりにも前者のインパクトが強くて、勇輝たちの頭の中にはその情報しか残らない。
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