紅の輝きは何物にも染まらずⅥ
一歩踏み出す。同時に足元へと伸びていた触手が、鞭のように跳ね上がる。踏み出した足を軸に半身になって避けると前方から槍のように触手が二本突き出された。
勢いをそのままに反転して、診察台の奥へと走り込む。その先から触手が横薙ぎに払われると、ユーキは思わずガンドを放った。
「(マジかっ!?)」
撃ち落としてホッとする間もなく、ガンドの直撃した触手が痙攣して太くなる。今、この瞬間に何倍速もの速さで成長をしているように見えた。
しかし、一瞬でも動きを止められるなら問題はないと、ユーキが更に前へと踏み出すと、さらに触手が蠢いて襲ってきた。
這うように二本、薙ぎ払うように二本。同時に避けるのは難しいと判断して、下の二本を飛び越えて、さらにガンドで上から襲ってくる二本に対処する。
「(アイリスの水の動きに比べれば、まだ鈍い!)」
そのまま着地して、目の前のフランへと鉱石を置こうと手を伸ばす。その瞬間、ユーキの体から魔力が急に抜け落ち始めた。
慌てて、足元を見ると躱したはずの触手が自分の足へと絡みついて脈動している。身体強化に回していた魔力があっという間に吸い取られていくのがわかった。
「ちっ、こいつでも喰らって大人しくしてろ!」
フランの胸元へ鉱石を置くとユーキを掴んでいた触手だけでなく、他のすべての触手が痙攣をして動きを止めた。
一瞬、ガンドを食らった触手のように巨大化することを警戒したが、触手は大人しくなると自分の巣に帰るようにフランの体へと引っ込んでいく。手や足から飛び出ていた触手は、そのまま首元の茨の痣へと元通りに集まると胸元に置かれた鉱石へ改めて触手を伸ばす。
まるで二度と手放すものかというかのように鉱石へと絡みつくと、ミシリッ、と軋む音を立てて先程まで黒かった影が実体化した。その光景に呆然としていると、ユーキは後ろから頭を叩かれた。
「おい、危ないならさっさと離れろ」
「いや、なんかもう大丈夫だと思って」
「いきなり攻撃を始めたときはどうなるかと思ったぞ。とりあえず、様子見だ。こっちにこい」
無理矢理フェイに引っ張られていくと、呆然と見ているマリーがいた。
「は、はは。もしかして、あたしが入ってたらやばかった?」
「マリーには俺が何と戦ってたか見えた?」
首を横にぶんぶんと振り否定する。サクラやアイリス、リリアンにも視線を合わせるが反応は同じだった。
「まったく、いきなり何もないところでダンスをし始めたかと思ったら、この有様だよ。いや、どんな被害が出ているのか見えないから困るんだけどさ」
フェイもお手上げといわんばかりに両手を上げて、横たわるフランの様子を見守る。心なしか、フランの顔色もだいぶ良くなってきているように思えた。
「で、ユーキ。君は一体何と戦ってたんだい? まさかとは思うけど、ここで誤魔化されるほど馬鹿じゃないからな」
「いやぁ、何と説明すればいいのか……。とりあえず、首に見えていた茨のような触手がうねうね襲ってきたっていえば信じてもらえるかな?」
「首の痣と同じって、ことはあの人の……!」
サクラが声を上げるとリリアンを除く全員が頭の中に月の八咫烏を浮かべた。ここまで来ると、本当に月の八咫烏が、時限式の爆弾をユーキたちの中に残していったようなものと解釈もできる。
もし、ダンジョンの深部でこのようなことが起こっていたら全滅は必至だっただろう。
「あの野郎……!」
マリーが右拳を手のひらへとぶつける。怒りに燃えていたマリーだが、その後ろをリリアンは通り過ぎ、牢屋の中へと入っていった。
「ちょっと、リリアンさん!? 危ないですよ!」
「大丈夫です。一応、ポーションも飲んでから入っています。それより、今は診察です」
サクラが声をかけるが、リリアンは我関せずといった様子でフランへと近づいていく。このままにして万が一が合ってはいけないとユーキたちも牢屋の中へと入っていく。
そのまま、フランの腕をとって脈拍を測ったり、何度か手のひらを押して血圧などを確かめたりしている。
最後に、フランの首元を覗いて痣を確かめているとフランが目を開けた。
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