死人に口なしⅣ
継司に聞こえないように会話していると、唐突に彼が振り返る。
勇輝は思わず口を真一文字に結んで、その動向を見守った。小さな声とはいえ、今の会話が聞こえてしまっていたのだろうかと体を強張らせる。
「それで、この世ならざる何某かを見る眼。それを使ってみて、どんな様子だったのかを話してもらっていいですか?」
気付けば、いつの間にか人気のない空地へと辿り着いていた。村の端にある開けた場所で、誰かに話しを盗み聞きされる心配もないので、村人の間に下手な噂話が流れることも防げるのは、今の勇輝にとっては都合がいい。
「そうですね。まず驚かないで欲しいんですけど……」
勇輝は前置きした上で呼吸を整える。
寺で呪いと思われる光景を見てから、ここに来るまでに何度も魔眼を開いて警戒や証拠探しをしていた。その為、自分が見ていたものを話すのは少々、気が引ける内容だった。
「この呪い。もしかして、他の人も対象になっているなんてこと、あります?」
「何?」
継司の表情が険しくなる。
それも当然だろう、と勇輝は思いながら言葉を続けた。
「呪いを視覚化したものを魔眼で見ました。それから、ここに来るまでに何度か魔眼を発動させましたが、あの呪いと同じようなものがいくつも――――いや、この宿場町全体に存在するんです」
最初は寺の境内から階段に向けて靄のような物が地面を這うようにして続いていた。最初は呪いの根源である亡霊武者の下に続いているのだろうと思ったが、階段を降りていくにつれて、それが間違いだということに気付く。
行き交う人々それぞれに多少の差はあれど、黒い靄が巻き付いていた。老若男女、誰一人としてそれから逃れている者は、ここにいる勇輝たち以外いない。
「つまり、この村の住人の全員が、呪われている?」
継司は信じられないと言った様子で、丑式へと視線を移す。彼女ならば、呪い専門の式神ということで、何かしらの返答があると期待したのだろう。
対して、丑式は一先ず腕を組んで唸った後に、ゆっくりと目を開いた。
「んー。確かにこの村の中に嫌な気配が漂っているとは思っていただよ。でも、まさか全員が呪われてるなんて、そんなこと早々起こるはずがないんだな」
可能か不可能かで言えば、時間をかけることができるという条件で可能。逆に言えば、短期間でできることではない。
その点を考慮すれば、地縛霊という特性上。寿命がほぼないと考えれば、村人全員を一人ずつ呪うことができるはずだ。
「んー、でもな、あの霊がこの村の中に入ってきている様子はないんだな。それにおらたちと出会った時にだーれも呪われてないのもおかしいだ」
加えて、仮に亡霊武者と会うことで呪われるとしても、村の外に出ることのない赤ん坊までもが呪われるのは、明らかに不自然である。
丑式が本当に見かけた全ての村人が、そのように見えたのかと勇輝に問いかけた。勇輝はしばしの沈黙のおあと、力強く頷いた。
「えぇ、赤ん坊からお年寄りまで、俺が見かけた人は全員が本人の放つ光とは無関係に黒い靄を纏っていました。この後、村に戻る時も魔眼で見てみますが、恐らくは同じ結果になると思います」
「そうかー。勇輝殿が嘘をつく利点はないから、本当にそうなんだな。だったら、少し別の切り口で攻める必要があるだ。かなり危険な方法だから、あまり使いたくはないんだけども」
仕方がないとばかりに丑式は大きくため息をつく。
おっとりした彼女がそこまで「危険」と表現する方法であるならば、相当な覚悟を持って臨まねばならないと、付き合いの短い勇輝でも理解できた。
「も、もーさん? それなら、まずは安全なやり方から試していった方が……」
「ん? いやいや、危険なのはおらたちじゃね。『呪いを掛けた張本人』だよ」
想定外の返事に、勇輝たちは首を傾げる。唯一、午式だけが何かを察したのか、目と額を覆うように手を当てていた。
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