死人に口なしⅢ
それから十数分、晴久に今まで変わった行動はないかと様々な質問を投げかけてみるものの、寛太は首を横に振るばかりであった。
「収穫は、あの亡霊が関わっていることくらいか……」
寛太の家を出て、しばらく歩いた所で勇輝は呟いた。晴久の生い立ちにあまり事件性は関係ないように感じていたので、一番重要なのは倒れる前に晴久が話していた地縛霊の武士のことだろう。
「四辻に出る首無し馬の武者のことですか? 確か、小さな頃に聞かされたことがあります。黄昏時に四辻を通ると落ち武者に首を狩られる、と」
継司は顎に手を当てて、空を見上げる。
何でも継司が祖父とこの村に訪れるようになった時には、その噂は既にあったのだとか。
「ひひっ、四方位貴族の家臣ともあれば、孫を連れて居ようと地縛霊のいる村に顔を出すのも恐れず、ですか。やはり、強者は一味違いますな」
「あぁ、俺の家に限らず、四方位貴族に仕える者たちは豪の者でなくてはやっていけないですから。何せ気を抜けば数百人の命が一夜にして消える、などということが平気で起こるのです。『魔物相手には修羅となって向かわねばならぬならば、亡霊なぞ何するものぞ』と祖父なら言っていたでしょう」
――――刀で斬れずとも気合で斬ってしまいそうだ。
そう勇輝が呟くと丑式が笑った。
「んだんだ。勇輝殿の考えもあながち間違いじゃないだ。結局は、剥き出しの魂に干渉するには同じ魂か、それに影響を与えるだけの気が必要だ。昨日の四辻でも、その刀が言ってたんじゃないだか?」
確かに心刀は魔力を籠めていれば、小石でも攻撃は通ると言っていた。勇輝が、その言葉を丑式に伝えると、彼女は一瞬だけ目を丸くした。
「ほう、そう言えば、雛森村は儀が早まったと聞いていましたが、その中に面白い心刀使いがいると兄が手紙を……。もしや、君のことですか?」
「えっと、もしかすると、南条家の長男のことでは?」
あまり自分のことを探られるのは、出自上、胃が痛くなるので勇輝は誤魔化してみる。すると、継司は意外にも「あぁ」と納得をしたようで、強く頷いた。
「あの南条家の神童ですか。確かに、あの技量で参加したら話題にもなりますか」
「やっぱり、その人って凄いんですか?」
桜が問いかけると間髪入れずに継司は頷いた。
「えぇ、その気になれば、一瞬で大鬼を殺すことができると噂が飛び交う程に。心刀の存在を知る者の間では、その扱う炎はいずれ、過去の南条家の歴代当主を凌ぐだろうと言われているほどです」
山一つを燃やし尽くしても、まだ足りぬ。かつての南条家の当主には、そのような言葉を残した人物もいたというが、それを超えるとなると、もはや人外の域である。
魔王の復活が危惧される中、聖女が探し求めている勇者よりも勇者的な働きはできそうだと勇輝は考えた。
「よく勝てたな、俺」
「うん。無事に帰って来てくれて本当に良かった。お父さんの身代わりの札があっても、大丈夫じゃなかったかもしれないって、ずっと心配だったもの」
勇輝の呟きに桜がコートを指で掴んでいた。
なるほど、と勇輝は思う。戦う方は戦う方で大変だったが、よく考えて見れば、ただ待つだけの方がよほど恐ろしく感じると。戦闘の最中は目の前のことを対処することで手いっぱいだった。逆に待つだけの身としては、考えるべきことが少ない分、不安と恐怖が圧し掛かって来る。そして、それは自分の力だけではどうすることもできないものだ。
「いや、その……あの時は悪い。もっと早く迎えに行く予定だったんだけど」
「ひひ、勇輝殿は十分早かったですとも。満身創痍でありながらしっかり追い付いたのですから、胸を張ってください。おっ嬢もそれは十二分に理解されているでしょうし」
午式が勇輝の背中を軽く叩く。
彼が國明を足止めをしていなければ、桜の下には辿り着くことさえできなかった。それ故に、午式の言葉はとても心強く感じる。
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