紅の輝きは何物にも染まらずⅣ
複雑な表情をするエドワードをよそに、リリアンはユーキたちへと問いかけた。
「吸血鬼という種族上、魔力が足りないというのは私も気付いていました。私も一応、宝石に魔力を溜め込んで使用していますからね。しかし、魔力の籠った物から移し替える、供給するというのは簡単なようで難しいです。おまけに吸血鬼は血を媒介にして吸収しますから、鉱石からというと接触するか、或いは粉末状にして飲み込むかしかないので不適切かと」
「――――バカなことを言うな。そもそも必要なのは火の魔力だ。何が入っているかわからぬ魔力を突っ込むわけにはいかん。それこそ魔力操作を極めたような奴でない限り判断なんぞできん」
我に返ったエドワードが反論すると、ユーキはすぐに答えた。
「いえ、これに入っている魔力は間違いなく、火の魔力のみです。それも強力な」
「なんだと?」
自信満々に答えるユーキにエドワードが眉根を震わせた。それもそのはず、魔力を感じて判断することは想像できていても、まさか魔眼を通して色で判別しているとは思うまい。
ユーキの眼にはゆらゆらと立ち上る紅い光が映っていた。恐らく、ドラゴンが吐くブレスから火の魔力を蓄え続けていたのだろう。その輝きはドラゴンには及ばずとも、その片鱗を見せつける程度には強力だった。
「問題は、これをどう扱うかです。エドワードさん。あなたが用意している方法より、こちらを使って安全にできると思うのですが?」
その言葉にユーキ以外の全員が驚いた。
「おい、ちょっとこっち来い」
マリーが慌ててユーキを呼び寄せると聞こえないように耳打ちする。
「お前、準備できたのは素材だけでやり方は、まだわかってないだろうが。素材を餌にやり方を聞き出すんじゃなかったのか?」
「いや、黙ってて悪いとは思ったんだけどさ。その点に関しては予想がついてたんだ」
「なんだって?」
「まぁ、確信したのは、この部屋に来てからなんだけどさ」
ユーキはマリーの手から逃れると改めて、エドワードに向かい合った。
「エドワードさん。フランを保護してる間、何か不思議なことは起こりませんでしたか?」
「不思議なこと、だと?」
「そう、例えば……体が急にだるくなる」
その言葉にエドワードの表情が固まった。その顔を観察しながらユーキは言葉を続ける。
「そうですね。後は……実験室にあった品から魔力が消えている、とかはどうでしょう?」
「そ、れは……」
言葉を詰まらせるエドワードにユーキは自分の考えが間違っていないことを確信する。魔眼に映った薬草や粉末からは、いつも見える輝きが失われていた。
エドワードが座っているのは、ユーキたちを立たせて自分が怒っているからではない。立ち上がるほどの気力がないほど、魔力が失われているからだ。
「これは予想ですが、フランは周囲から魔力を自動的に吸い上げているのではないでしょうか? そうであるならば、この鉱石を傍に置くだけでも改善するはずです」
「吸血鬼にそんな能力があるとは聞いたことがないですが……」
「いえ、これは彼女自身の能力ではないと思います」
ユーキはフランを運んでいるときに見た黒い触手の影を思い出した。だが、よく考えるとそれに似た物を既にユーキは一度見ていたのだ。
「――――月の八咫烏」
「あいつかっ!?」
アイリスも同じ結論に至ったのか、黒幕である男の名を口にした。
「確かフランに魔法をかけていました。もしかしたら、何かの作戦だったのかもしれないですね。例えば、『誰も気付かない内に騎士たちの魔力を奪いつくして無力化させる』なんてこともできますから」
月の八咫烏の思惑は読めないが、少なくとも、気付かない内に魔力が奪われるというのは厄介だ。フランが魔力を欲していれば、周りの人間が知らない内に倒れてしまうことも有り得ない話ではない。
「あ、ありえん。そんな、単純な方法で吸血鬼を救えるなどあり得ないですぞ。そもそも、そのような魔法など存在するはずが――――!?」
「いえ、ありますね」
慌てふためくエドワードを突き放す一言がリリアンから飛び出た。
「大規模な治療魔法においては治癒術者本人の魔力が尽きないように、魔力を回復するポーションがあります。吸血鬼には効果がないようでしたが、人間にとっては非常に有効な手段の一つです。ですが、戦場などでは物資の補給が途絶えることも想定し、他者から魔力を受け取るための術式が存在します」
「治癒魔法だと!?」
驚愕の色に染まるエドワードをリリアンは見下すように解説する。
「そうです。そこの少女たちは、少年を救うときには直接手を触れることで魔力の譲渡を行っていましたが、戦場では動かせる手を減らすなどという暇はありません。故に、触れなくても魔力を供給する魔法が生まれたのは当然の流れでしょう。あなたのように、独りだけで地下に籠っている錬金術師とは縁のない魔法でしょうけれどもね」
「くっ、貴様も塔の中に籠っているだけの孤独者の癖に!」
「あら、私はあなたと違って、必要な時には呼べる仲間がいますし、術式も習得済みですから」
余程、患者を奪われたことが気に食わなかったのだろう。意趣返しを冷静な口調で、エドワードへと叩きつける。エドワードの反論がないことに笑みを浮かべるとリリアンは立ち上がって、部屋の奥へと続くへと近づいていった。
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