親交無き葬式Ⅶ
桜と午式の視線が勇輝へと注がれる。
「うん。俺も見えてるよ。喉と胸の辺りに濃い靄がある。集まっているようにも噴き出ているようにも見えるな」
黒ではなく赤色であれば血飛沫と誤認しかねない。天井に向かって噴き出る一方、その噴出口に向かって周囲から集まってきているように魔眼には映った。
「では、恨みが大分籠っているに違いありませんね。恐らくは、一撃目で喉に入れて動きを止め、二撃目で止めを刺したのかもしれません」
「遠くからの呪いではなく、近い距離での攻撃ということでしょうか? 随分と非効率ですね」
午式は首を捻る。
日ノ本国における呪殺の利点は自らの存在を知覚させずに、一方的に遠距離から攻撃を加えられることだ。わざわざ自ら近付いて呪いを直接叩き込むのはリスクが大きい。
「……」
丑式がジト目で午式を睨む。それに気付いて午式は「しまった」というのが面白いくらい顔に出ていた。
「はいはい。まーちゃんももーちゃんも喧嘩はダメでしょ。時と場を考えて」
桜が不穏な空気を感じ取り、すかさず二人の間に割って入る。一触即発の空気が僅かに和らぐのを感じて、勇輝はほっと息を吐き出した。
「桜って、すごいな。魔法がない世界なら、小さい子の面倒を見る仕事とか、凄い上手そうだ」
「そうかな? 私としては、いつも見てた二人だから何となく先が見えるもんで止めただけなんだけど……」
そう告げながら、桜は両手で午式と丑式の距離を物理的に放す。力的には余裕で耐えられる二人だが、桜ということもあってされるがまま押しのけられてしまっていた。
「――――で、この人に亡くなった状況を知っている人はいるんですか?」
「えぇ、この村に住んでいる男で、この仏様の友人だそうです。陽が沈んだ頃にえらい形相で走って来たのを見かけて、声をかけようとしたところで苦しんで倒れたんだとか。その他にも目撃者は数人いたそうですが、俺が聞いた限り一番詳しいのは今の話くらいです」
継司は肩を竦めて、遺体の傍に立って見下ろす。
「この仏様から感じられる感覚を頼りに、昨日の晩、あちこち歩き回って見ましたが、感覚的に村の外から持ち込まれたものじゃないかと」
「村の外というのは?」
「普段の村人が活動する範囲外。田畑や近くの山の向こう側までには届かないと思われます」
継司の口から放たれた言葉を勇輝も桜も理解するのに時間がかかった。
数秒して、困惑の眼差しを向けながら勇輝は問いかける。
「え、あの別れた後に、ずっと調査をしていたんですか?」
「もちろんです。これが本職ですから」
改めて、継司の顔をよく見ると目の下にうっすらと隈が浮かんでいた。全く寝ずに、という訳ではないだろう。しかし、村の近くを散策したといっても、四方八方全てを一人で調べるには時間がかかりすぎる。勇輝たちが来る前から調査していたとしても、睡眠時間はかなり短いはずだ。
「いや、体調は大丈夫なんですか!?」
「仏様を荼毘に付すまで時間がありません。冬とはいえ、数日ももたないでしょうから。そうなる前に下手人を見つけ出すのが、俺の役目です。何、二日や三日の徹夜程度、終わってから幾らでも寝ることができます」
平然と言い放つ継司に掛ける言葉が見つからない。
仮に見つかったとしても、その強い意志の前には何も意味をなさないだろうことが容易に伺えた。
「今回は呪いを視覚的に感じ取れるという君の力をぜひ貸して欲しいです。俺にもできることには限界がありますから」
「ち、因みに呪いに長く触れたり、見ていたりすると危険なことってあったりします?」
広之には呪いを学ぶと同時に自分の保有する能力が、一体何なのかを把握する様に助言を貰っている。自分の体の中に得体の知れないものをずっと飼い続けるのも、流石に終わりにしたいところだ。
【読者の皆様へのお願い】
・この作品が少しでも面白いと思った。
・続きが気になる!
・気に入った
以上のような感想をもっていただけたら、
後書きの下側にある〔☆☆☆☆☆〕を押して、評価をしていただけると作者が喜びます。
また、ブックマークの登録をしていただけると、次回からは既読部分に自動的に栞が挿入されて読み進めやすくなります。
今後とも、本作品をよろしくお願いいたします。




