親交無き葬式Ⅵ
継司は少しだけ空を見上げた後、門の先に誰もいないか覗き込んで振り返る。
「ここの住職とお坊様たちは人柄は良いのですが、そういった呪いには反応を示していませんでした。だからと言って日々のお勤めなどを怠けているという訳ではないでしょう。恐らく、宗派や環境によって、伸びる力にも差異があるのでは――――」
話の途中で継司は唐突に口を噤んだ。
そして、門の方へ向き直ると勇輝たちには何も言わずに先へと進んでしまう。
慌てて、勇輝たちが門をくぐると若い僧侶が二名、清掃用具を持って歩いてくるのが見えた。竹ぼうきを持っている様子から、階段に積もった落ち葉を片付けるのだろうと思っていると、ある程度の距離で僧侶は足を止めて、頭を下げた。
「おはようございます、継司様。仏様は昨日と同じところでお休みされております。既に周囲の準備は整えてありますので、ご自由にお入りください」
「丁寧にありがとうございます。お忙しい中、協力していただき助かっております」
互いに礼を交わす中、どこか堅苦しい感じを受けて、勇輝は先程の会話が聞こえていたのではないかと冷や汗が噴き出た。
しかし、顔を上げた僧侶たちの視線からは、特に変なものを感じない。表情も穏やかで落ち着いている様子だ。
「では、我々は失礼いたします。もし、住職に何か用があるようならば、気兼ねなく声をおかけください」
会釈をして去って行く僧侶に勇輝たちは道を明け渡す。先程まで騒いでいた午式も丑式も黙って道を開けた。
式神に何らかの反応を見せるかと勇輝は注視していたが、彼らは一瞥することなく、落ち葉を掃いて集め始めた。
「(おかしいな。お寺の清掃って朝早くからするイメージがあったけど、今からやるのか。それとも、何かあったのか?)」
既に陽は登り、時刻は八時を目前にしていた。陽が出る前からお経を唱える「お勤め」があり、その後に清掃や朝食の支度をすることが多い。
もちろん、それは勇輝の知る世界の僧侶の過ごし方なので、こちらでは違っていても全くおかしくはないし、清掃を常に心がけて行うことは寺という神聖な場所において重要だろう。
何せ、死の穢れを持ち込まれる場所なのだ。放って置いたままならば、呪いと同じように何が起こるかわからない。
「さて、本堂の方へと行きましょう。俺について来れば、何も言われることはないので安心してください」
「継司さんは、よくここへ?」
「えぇ、俺が小さい頃に、祖父に連れられて兄とよく来ていました。祖父はやり残したことがある、と。今は足を悪くしているので、代わりに動ける俺が村の様子を時々見に来るんです。やり残したことが何かはわかりませんが、祖父の為にも何かしてあげられたらと思いまして――――」
継司に続いて本堂に足を踏み入れると、勇輝は見えない獣に息を吹きかけられるような感覚に襲われた。魔眼を開けば、昨晩と同じ黒い靄。ただし、その濃さはかなり鳴りを潜めており、少し濃い煙程度のものに落ち着いている。その代わりに、遺体からかなり離れた場所まで広がっているようであった。
顔をその中へと突っ込んでしまったのが原因なのか、継司の言葉が籠って聞こえる。幸い、勇輝の周りには結界が張られているので、その中にまで侵入はしてこないのだが、それでも嫌な感覚があるというのは不思議な気分だった。
「――――こりゃ、酷いんだな」
丑式が勇輝の後ろから前へと進み出る。その視線の先にあるのは呪殺された遺体だ。
屈みこんでそれを観察した後、丑式は険しい顔で振り返った。
「駄目だこりゃ。おらが知ってる呪いとは少し違う。でも、この仏さんが苦しんだのはわかるだ。多分、喉と心臓に何かを打ち込まれたに違いねえ。丑の刻参りか、それとも途中で出会った亡霊武者かはわからんけんども……不憫でならねえだ」
そう告げた丑式は、遺体へと手を合わせると勇輝たちの下へと帰って来た。
【読者の皆様へのお願い】
・この作品が少しでも面白いと思った。
・続きが気になる!
・気に入った
以上のような感想をもっていただけたら、
後書きの下側にある〔☆☆☆☆☆〕を押して、評価をしていただけると作者が喜びます。
また、ブックマークの登録をしていただけると、次回からは既読部分に自動的に栞が挿入されて読み進めやすくなります。
今後とも、本作品をよろしくお願いいたします。




