親交無き葬式Ⅱ
夜も更け、静かに冷たい空気が宿場町を包む。
規模が小さいが故に、各店の閉店や宿の消灯も早い。そんな中、勇輝と桜は既に敷かれた布団へと帰って来るなりダイブした。
「おかえりな――――ひひっ!? お二人ともどうされましたか!?」
唐突に起きた出来事に理解が追い付かなかったのだろう。人間の顔のまま、馬のように目をひん剥いて午式が驚きの声を上げる。
慌てて午式が丑式へと視線を送るが、彼女は至って普通の様子。怪我や呪いを受けたのならば、ここまで落ち着いていられるはずがない。
「丑式。これは一体――――」
非難の視線が丑式に突き刺さるが、そんなものはないも同然とばかりに彼女は佇む。それでも説明の必要性は感じていたようで口を開こうとして、勇輝の手が上がったのを見て、それを閉ざす。
「いや、呪いの勉強をしてきただけ。ちょっとばかり、心臓に悪い光景が広がっていただけなんです」
そう告げると勇輝はパタリと腕を下ろした。
「ゆ、勇輝殿!?」
「あ、大丈夫大丈夫。精神的に疲れただけで、ちょっと吐き気がするだけだから」
「それは大丈夫とは言わないのですぞ!?」
伏せた勇輝の肩を揺すり、午式は桜の様子も窺った。体を横たえ、虚ろな瞳で横にいる勇輝の方を見ている。
動くのも面倒なようで桜の瞳だけが動き、午式を捉えた。
「その、呪いでお亡くなりになった人って、あんな雰囲気なんだね。多分、私より、魔眼のある勇輝さんの方が辛いんだと思う」
勇輝たちが継司に連れられて行ったのは、先日、呪殺されたという被害者の男の下であった。
呪殺されたということもあってか、男の亡骸は当人の家ではなく、村のはずれにある寺に保管されていた。既にそこの僧侶たちが葬るための準備をしてくれていたのだろう。
棺の中に白い装束を身に纏い、生者が着るものとは逆に左前の形で着つけていた。肉眼で見る限りは、顔が青白い以外に目立った異常は見られなかった。
しかし、その姿を目にした瞬間、勇輝と桜は心臓を鷲掴みにされたような感覚に陥ってしまった。
「あの感じは、多分、今までの経験の中だとバジリスクに会った時に近いかも」
「あぁ、俺もそう思う」
石化の魔眼を持つ巨大な蛇であるバジリスク。かつて出現した魔王の右腕的存在とも言われる存在と同種属の幼体ではあったが、それでも村を襲うには十分なほどの巨体を誇り、その体に宿した毒性と魔眼は遭遇した者を恐怖に染め上げるには十分であった。
「んだ。神職みたいな人たちのほとんどは、ああいう呪いにも気付く力があるんだな。それに普段から身も心も清めることで不浄や呪いにも耐性がついてるだ。その点、あの兄ちゃんの一族は、そういう物とは無縁でも気付けて、それに侵されない力があるだ」
「やっぱり、それって凄いことなんですか?」
「んだんだ。呪いに侵されないのは、体を鍛えている内に自然とつくことはあるけんど、そうすると逆に呪いに気付けなくなるだよ。でも、あの兄ちゃんは違う。高位の術士くらいに敏感に呪いの残り香に気付くことができるだ」
それこそ、丑の刻参りなどをした日には、その残り香を辿って、呪った犯人を見つけ出すくらいしかねないのだとか。
「でも、私たちでも呪いの感覚を感じ取ることが出来たよ?」
「そりゃ、寺に運ばれて、色々と通常とは異なる浄化の処置をしたからだ。体の中に隠していたのが、それで溢れ出て来ただよ。もし、普通の埋葬の仕方でやってたら、そのまま燃やされて手掛かりなしだったに違いないだ」
そうなってしまえば、完全犯罪の完了だ。犯人は大手を振って、何の心配もなく生きていけることができる。
「幸か不幸か。あの兄ちゃんが偶然、この村にいたおかげで気付くことができただ。多分、犯人も焦ってるに違いねぇだ」
両腕を組んで満足そうに頷く丑式に、午式はそっと立ち上がると音もなく彼女の前に立った。
【読者の皆様へのお願い】
・この作品が少しでも面白いと思った。
・続きが気になる!
・気に入った
以上のような感想をもっていただけたら、
後書きの下側にある〔☆☆☆☆☆〕を押して、評価をしていただけると作者が喜びます。
また、ブックマークの登録をしていただけると、次回からは既読部分に自動的に栞が挿入されて読み進めやすくなります。
今後とも、本作品をよろしくお願いいたします。
 




