紅の輝きは何物にも染まらずⅢ
薬草の匂いが立ち込める部屋に、ユーキたち五人は訪れていた。その目の前にいる宮廷錬金術師は非常に腹立たしいらしく、座ったまま腕と足を組んで貧乏ゆすりをしていた。
「常識的な範囲で、という意味でならば日中であることは条件として必須だろう。だが、君らは吸血鬼の彼女を助けるのだと息まいていたのではなかったのかね?」
「まぁ、そうですね」
「だったら、もっと早く来るべきだろう。もう昼を過ぎている。てっきり午前中に来るかと思って準備をしていたら、こんな時間だ。私の貴重な時間を返せ、この寝坊助め!」
昨夜、アイリスが寝た後、みんな揃って起きてきたのにもかかわらず、アイリスだけが寝たままだった。いつまで経っても起きようとせず、どうしたものかと迷っている内にユーキの時計は十三時を指していた。
慌てて駆け付けた地下室には、お腹の虫を鳴かせながらイラついた錬金術師が憤怒の形相で待機していたのだ。
流石のマリーでも反論できる雰囲気ではなく、廊下に立たされた生徒の如く居心地悪そうに部屋の中を見回している。
「まぁ、いいじゃないですか。それに私は彼らの持ってきたという物の方が気になります。話を進めていただけませんか?」
口調こそ丁寧だが、今すぐにでも杖を突きつけそうな殺気を放つ女性がエドワードへと声をかける。その女性は魔法学園の保険医であるリリアンであった。張り付けた笑顔なのが遠目でもわかる。額にはひびが入ったかのように青筋が浮かんでいるのが非常に恐ろしい。
「ふん。まぁ、いい。ほら、さっさと出したまえ」
「えっと……何をですか?」
ユーキを始めとする五人の頭の上に「はてなマーク」が浮かぶ。その様子にエドワードが本気でイラついているのか、床を大きく踏み鳴らした。
「あなたたち、あの少女を救うために何かを手に入れたんでしょ?」
「な、なぜそれを……?」
フェイが唖然とした様子でリリアンの言葉に反応する。確かにユーキたちはフランを救うために動いているが、それをリリアンに話したことはないし、ましてや手に入れた宝石のことも話していない。
リリアンはエドワードを見ながら、そっと呟いた。
「人の口には戸を立てられない、とはよく言ったもの。どこかのお爺さんで、誰かのお師匠様から連絡があった、と言えばわかりますか?」
「お爺さんで……?」
「錬金術師……?」
マリーとアイリスが顔を見合わせて呟いた瞬間、ユーキには一人、心当たりがあった。
「まさか、それって変な物を作るのが得意なことで有名な錬金術師さんだったりしませんか?」
「失敬な。師匠の発明はすばらしいものばかりだ」
エドワードは貧乏ゆすりこそやめたが、その顔が再び不機嫌なものに変わる。
「まさか、ロジャーさんだったり、します?」
サクラが苦笑いしながら訪ねるとエドワードはおもむろに立ち上がり、両手を天井に掲げた。
「生まれながらの天才、奇抜な発想力に、風よりも早い実行力。この宮廷錬金術師エドワード・モルガンがあるのも、師匠あってのものと言っても過言ではないっ!」
「(あ、コレ当たりだ)」
ユーキの背中で嫌な汗が流れる一方で、サクラを除く三人も一様に複雑な顔でひそひそと声を潜めて会話していた。
「あの師匠にして」
「この弟子あり」
「言われてみれば納得」
酷い言われようである。ユーキとしては、初対面のインパクトこそ大きかったものの、コートの製作者ということも有って、感謝こそすれども、そこまで言う程のことはない。
サクラに至ってはロジャー氏のファンみたいなものだ。三人の会話に若干の苛立ちを覚えているのが横にいるユーキでもわかった。
「そこまで言われると、恐れ恥ずかしいな」
「聞こえてたんだ……っていうか、褒めてない、褒めてない」
思わずツッコミを入れてしまったユーキだが、自分たちの行動がばれているならば、隠す必要もないと考えて、革袋から魔力が籠ったルビーの塊を取り出した。
「なるほど、こんな方法があったとは」
リリアンは取り出したものを見ただけで対処法を思いついたらしい。逆にエドワードはというと喜ぶべきなのか、悔しむべきなのかわからないとでも言いたげな表情をしていた。
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