亡霊武者Ⅳ
桜は辺りを見回して、本当に武士の霊がいなくなったのかを心配していた。
「さっきの幽霊。また襲ってこないかな?」
「今のところは大丈夫だ。俺の魔眼でも見えないから」
勇輝の魔眼の視界には黒い色は一切見えていない。
少なくとも、村に着くまでは魔眼を維持し、警戒するつもりでいたが、拍子抜けするほど気配を感じなくなっていることが不思議だった。
「丑式さん。因みにアレは俺でも斬れるんですか?」
「うん? おらより本人に聞いた方がよくないか? 自分のことは自分が一番よく知ってるはずだ」
本人というよりは本刀というべきだろうか、などと丑式は笑いながら勇輝の腰を指差す。
勇輝の持つ心刀には意思が宿っている。本人曰く、俺はお前だ、と言っているのだが、正直、自分自身の分身とは思えない。
ただ、丑式の言うことはまったくもって正しいので、勇輝は午式に跨った後に呼びかけてみることにした。
「なぁ、お前だったら、あれを斬れるか?」
しかし、先程の亡霊と同じく、心刀からは何の返事もない。
勇輝は大きなため息をつくと肩を竦めた。
「こんな感じです。この前から話しかけてもうんともすんとも言わないんですよ」
「あー、それはそれで勇輝殿と一緒で、ややこしそうな何かが纏わりついてるんだな。何か最近、呪われたものでも斬っただか?」
「え? そんなものあったかな?」
勇輝は僅かに視線を空に向けて、心刀を手に入れてからの敵を思い出す。
しかし、心刀が話さなくなったのは、ここ最近のことであり、特段、不思議なものを斬った覚えはなかった。
『――――人が頑張ってるところに、ごちゃごちゃと話しかけて来るなよ。こっちはこっちで忙しいんだ。その程度の悪霊だか亡霊だかくらい、そっちで何とかしろ』
その時、急にエコーがかった声が響く。すぐにそれが心刀の声であることは理解できた勇輝だが、あまりにも一方的な物言いにむっとしながら言い返した。
「あのな。幽霊相手に攻撃が通るかどうかは死活問題なんだよ。簡単に答えられる質問なんだから、はいかいいえで答えろって」
『出来るって言ってんだよ。幻を生み出すような能力を持ってるんだから、俺自身が魔力を纏っているのはわかり切ったことだろうが。ああいう霊体はな。魔力さえ宿らせてれば、そこらの小石でもダメージは通るんだ。わかったなら、俺に聞かなくても対応できるように勉強しておけ!』
声量を上げたら、それを超える形で言い返して来る心刀。よほど大変な何かに取り組んでいるような物言いだが、その正体は刀だ。少なくとも、昨日から今日に至るまでにやったことと言えば、寝ている間に僧正の分身を勇輝にけしかけてきたくらいだろう。
「そこまで怒らなくたっていいだろ? あ、おい、聞いてるのか?」
勇輝が呼びかけるも、これ以上話すことはないとばかりに反応が無くなる。どうしたものかと桜の肩へと視線を向けると丑式が目を丸くして、心刀と勇輝を交互に見ていた。
「な、何か?」
「いんや。ただ、雰囲気からしかわからないけんど、この心刀も大分大変そうだと思ってな。どうにも大層なもんを秘めてそうだから、ここはそっとしておくのが良いんだな。触らぬ神に何とやらって言うもんだし」
言葉に言い表すのは難しいが、心刀が忙しいのはどうやら本当らしい。
勇輝は半信半疑ながらも、丑式の言葉を受けて心刀が自ら話すまで放っておくことにした。
「何をしてるかはわからないけど、勇輝さんみたいにしっかり乗り越えて、元に戻るんじゃないかな? あ、でも、勇輝さんって何でも自分で抱え込む癖があるから、それは心配かも」
笑っていた桜だが、最後の最後で勇輝をジト目で見る。
「え、俺そこまで抱え込むようなこと――――」
「おっかしいなー。勇輝さんってどこの出身の人だっけ?」
「うっ……」
それは人に相談できる話題ではないと思いながらも、他人に相談をしていないことが、この世界に来てからありすぎる。桜の言う通りなことに気付き、表情を強張らせた。
「ひひん。そんなこと言ってる間に、村の入り口が見えてきましたよ。お二人とも、念のために気は引き締めたままですぞ」
午式に言われて視線を前に移すと、宿場町というには人通りが少ない村の中が見えて来ていた。
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