対応部隊Ⅴ
桜の言葉に午式も丑式も素直に頷いて大人しくなる。
そんな中、勇輝はふと疑問に思ったことを口にした。
「そう言えば、ほとんどの式神の人たちには会ったことあるけど、まだ顔を合わせてすらいない人もいるんだよな……。普段はどうしてるんだろう?」
「多分、お父さんの指示で遠くを見回りしてるんじゃないかな? ほら、酉式さんとは西園寺の領地で会ったでしょう?」
勇輝はなるほど、と頷く。
土蜘蛛を倒してから、あちこちの領地で迷宮に異変が出たり、魔物の変異種や大量発生が起こったりした。それをこの村にいながらも、対応していたのが広之だ。
村の儀式と同時並行で式神を飛ばし、事件の解決にも取り組んでいたことを考えると、体調を崩して寝込んでしまったことは、ある意味で当然の結果と言える。
「うん? 何で他の人にはあだ名で呼ぶのに、酉式さんはそのまんまなんだ?」
午式なら馬の「ま」でまーさん。丑式ならば鳴き声の「もー」からもーさん。他にも桜の独創的なあだ名が各式神につけられているが、酉式にはそれがない。
「その、酉式さんと申式さんはあんまり会ったことがないから……」
「ひひん、あの二人はいつも色々な所に出かけていますからね。拙者たちの中でも斥候のような役に向いていますから。おっ嬢が小さかった頃は護衛として常に傍にいたのですが、あの二人は姿をあまり見せなかったですからね」
西園寺の領地でもチビ桜や酉式本人が、そんなことを言っていたことを勇輝は思い出す。そして、同時に、頭の中でその時に出て来た疑問が思い返された。
「酉って、鶏なのに、何故、飛べるんだろう……?」
人に飼われる前の鶏の先祖も、基本は地上で歩いて餌を探し、寝る時は木の上に飛んで休んでいたという。
しかし、酉式は他の鳥と遜色ないほど華麗に空へと舞い上がり、勇輝たちの前から姿を消した。その姿は烏天狗である僧正に近い。
「そこは主の術式のおかげでしょうな。それこそ、拙者の脚だって主殿のおかげで普通の馬よりも数十倍強くなっておりますので」
そう告げた午式は、それを証明するかのようにゆっくりと速度を上げ始める。明らかに以前、勇輝が乗った西園寺家の馬よりも早い速度であるというのに、不思議と振動や衝撃は小さく、快適に乗っていられる。
風の中を突っ切って進む感覚は、寒い冬にはきついはずだが、それも今はどこか心地良い。
「午式。言わなくても大丈夫だな?」
「ひひん。お任せください。今度は調子には乗っておりませんとも。安心安全快速の三拍子でおっ嬢たちをお運びします!」
流石に午式も丑式の忠告を忘れていないようで、自信満々に言い放つ。尤も、快適とはいえ、既に出ている速度は相当なものなので、傍から見たらそうは見えないかもしれない。
丑式もあくまで確認程度の声掛けだったようで、軽く頷くとそれ以上は午式に何かを言うことはなかった。
「しかし、主が言うにはおっ嬢も勇輝殿も、また海の向こうへと旅立たれるとか。せっかくお会いできたのに、もうお別れと考えると悲しいものがありますな」
「また、春には戻ってくるつもりだから、一緒に年は越せないかもしれないけど落ち込まないで」
残念がる午式の背を撫でながら桜は励ます。
王国へと戻る船は、恐らく王族であるアメリアが年末年始をゆっくり家族と過ごすために、ある程度早く日ノ本国を出港することが考えられる。
二カ国間協議の内容を報告し、それに合わせて法令その他の準備を年内に済ませることは難しいので、十二月中旬に報告だけでも終えておくという形になるだろう。実際に役人たちが動き始めるのは年が明けてから、実際に法令が施行されるのは、どんなに早くても春くらいか。
そうなると、船が出るまでの猶予はそこまでないように思われる。
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