対応部隊Ⅲ
挨拶もほどほどにして早速出発しようとするのだが、勇輝は午式の横まで来て固まる。
「勇輝さん、どうしたの?」
一度、大きくなった丑式によって抱えあげられて午式に跨った桜が、勇輝を見下ろしていた。
「いや、馬とかには乗り慣れていないから、大丈夫かなって」
見た所、鞍も何もついていない裸馬だ。一応、手綱だけはつけられているが、正直に言って不安しかなかった。四方位貴族の一角である西園寺家で乗馬した時は、内腿は筋肉痛になるし、擦れていたいし、と散々であったことは言うまでもない。
今回の目的地は、その時に乗った距離よりもはるかに遠いので、降りる時にはどうなっているかを考えると恐怖しか湧いてこなかった。勇輝の脳裏に生まれたての小鹿のように地に降り立つ未来の自分が過ぎる。
「大丈夫だって、勇輝さんって、変なところで怖がりなんだから。もーさん! やっちゃって!」
「ほら、高い高ーい。跨るだーよ」
生まれたての小鹿の想像をしていたら、本当に赤子の様に持ち上げられてしまった。勇輝より背が高い丑式であったが、その膂力は見た目以上の物らしく、一回で放り投げるように抱え上げると、楽々と勇輝を午式の上へと運んでしまった。
唖然とする勇輝の目の前で丑式は軽く音を立てて、白煙に包まれる。すると、その中から小さな丑式が蝶のようにフラフラと近寄って来た。
「おらも嬢のように上手く飛べるかと思ったけんど、そんなことはなかっただ」
何とか桜の肩に辿り着いた丑式は大きくため息をつく。目を細めて、かいてもいない汗を拭うような仕草をして、勇輝へと振り返った。
「ま、人にはそれぞれ得意不得意があるから仕方ないだ。おらの得意分野は『呪術』だから、大船に乗った気持ちでいればいいさー」
「え、肉弾戦が得意じゃないんですか!?」
丑式の力であれば、素手であっても大抵の魔物は捻り潰せるような気がしていた。さらに得物は巨大な金棒。近づくだけでも一苦労するはずだ。そんな丑式がまさかの後衛担当とは勇輝には思えなかった。
「呪術を使うからといって、後ろに引っ込むとは限らないよ。確かに前に出てくる呪術師って見たことがないけど」
「んだ。基本的には呪ってる姿を見られるのは悪手。見られたら効果がなくなる縛りの『丑の刻参り』もそうだけんど、一番は相手に呪い返しをされることが嫌だなぁ」
どのような呪いの仕方をするかを見られれば、その呪いの起点となる道具の破壊や防ぎ方を悟られることにもなる。丑式はそのようなファンメル王国で習得する魔力で生み出して発動する術式とは異なる「呪術」を勇輝と桜に教えておくよう広之に言付かったと言う。
「特に旦那さんの使う『がんど』ってやつは、遠くから見たことあるけんど、遠当てや気当てにしては強い気がするなぁ」
また、近くで観察していればわかるかもしれんけど、と言いながら丑式は頬を掻く。話し方もゆったりとしているので、温厚で優しそうなイメージだが、これで呪いを扱うというのだから恐ろしい。
勇輝は手綱が握ったのを確認して、午式が少しずつ動き始める。それに合わせて桜が勇輝の腰の辺りを摘まんで引っ張った。
「勇輝さん、ほら、もっとこっち寄って。こうすれば、タイミングも早くわかるよ」
言われた通りに勇輝は前にずれると、桜の背中と密着する形になる。いくら勇輝のコートが魔法をかけられていて、保温機能に優れていたとしても、直接、人が触れれば体温は伝わる。
加えて、桜の髪からは爽やかな香りが漂ってきていて、勇輝の鼻腔をくすぐった。
「勇輝さん? どうかしたの?」
「あ、その、髪から良い匂いがするなって思って」
思わず正直に勇輝が答えると、途端に顔を真っ赤にする桜。すぐに顔を前に向けて、見られないようにしたようだが、勢いが強く髪が勇輝の顔を掠めるようにして広がる。
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