命短しⅣ
勇輝の百面相を見た広之は興味深そうに観察した後に一言。
「この国でもあちらでも、扱いはそう変わらなそうですね」
「いや、それはそれで問題だと思うのですが?」
便利屋のようにあちらこちらから声をかけられても困る。今までの経験から言うと、命が幾つあっても足りない。いつか本当に命を落とすのではないかと心配になって来る。
「君でなければ、そうはならないでしょうね。実は心の中で君が自ら望んだことか、そういう星の下に生まれたのか、あるいはその両方か。いずれにしても、なるべくしてなった、というところでしょう」
どれだけ偏った運命だ、と心の中でトラブルを呼び込んでくる何かに文句を言ってやりたくなる勇輝。初めてこの世界に来た時に「漫画の主人公のように活躍したい」と思っていたことを忘れ、割と本気で迷惑していると考えていた。
「強い力を持つ者は強い力を持つ者を引き寄せます。良くも悪くも」
広之は笑みを絶やさず、今後も何かしらの事件に巻き込まれるだろうと告げた。その発言は経験則から出た言葉なのかは勇輝にはわからなかったが、不思議とそうなのであろうと納得できてしまった。
「だから、もし何かあった時は遠く離れていても、私もできる限りの手助けはするつもりです。私だけではない。君の周りには大勢の仲間がいます。それを頼ればどんな窮地も乗り越えられるはずです」
王国に戻った後も桜を頼みます、と広之は頭を下げた。勇輝もそれに釣られて頭を下げて、返事をする。
「じゃ、若輩者ですが、全力で桜さんを守り通してみせます」
「守るだけですか? 婿殿」
勇輝が顔を上げると、そこには少しだけ口の端を吊り上げた広之がいた。一瞬、思考に空白の時間が産まれたが、すぐに広之の言葉の意味を理解して、勇輝は頭を下げる。
「もちろん、幸せにして見せます」
「えぇ、そして、あなたにも幸せがあることを願っています。桜、夫婦とは支え合うものです。あなたも彼と同じような気持ちで過ごしていきなさい」
突如、この場にはいない人物の名を呼びかけたので、勇輝は自分の耳を疑った。怪訝そうに顔を上げると、いつの間にか広之の隣に桜が座っている。
口を鯉のようにパクパクと開け閉めしている中、桜は広之に力強く頷いていた。
「失礼、男というのは愛する者の前では、なかなか素直になれない生き物だと君もわかっているでしょう? これも幸せになってもらうための手助けだと思ってほしい」
どうやら、広之が何かしらの術で桜の姿を隠していたようだ。一杯食わされた勇輝としては、怒りよりも気恥ずかしさの方が先にこみあげて来て、顔が熱くなるのを感じる。
桜へ何と声をかけるかどころの話ではない。もはや、視線を合わせるのも難しい。
「勇輝さん」
しかし、桜に名前を呼ばれて振り返らないわけにもいかない。心臓が早鐘を打つ音を感じながら、恐る恐る視線を向ける。
「改めて、不束者ですが、よろしくお願いいたします」
「こ、こちらこそ……」
桜は頬を朱に染めていながらも、まっすぐ勇輝を見つめる一方で、勇輝は顔全体が真っ赤になり、視線が桜と広之の間を行ったり来たりしていた。
そんな様子がおかしかったのか、桜は小さく笑う。
「勇輝さん、戦う時とかすごいかっこいいのに、どうしてこういう時だけ、そんな猫さんみたいになるのかな?」
「誰だって、緊張することの一つや二つはあるんだ。まだ慣れてないだけだよ」
「ふーん。慣れるまでどれくらいかかるかな?」
やけに挑発的な桜の態度に勇輝は首を傾げそうになる。普段の桜からは考えられない行動で、何か桜の機嫌を損ねるようなことでもしたかと、瞬時に脳内に検索の電気信号が走った。
ただ、どれだけ考えても勇輝には身に覚えが全くない。どうしたものか、と頭を悩ませていると広之が桜の肩を叩いた。
「その辺にしておいてあげなさい。別に彼も悪気があったわけではないのですから」
広之のフォローが入るが、それでも勇輝には理解できず、頭の上にはてなマークを浮かべる。
【読者の皆様へのお願い】
・この作品が少しでも面白いと思った。
・続きが気になる!
・気に入った
以上のような感想をもっていただけたら、
後書きの下側にある〔☆☆☆☆☆〕を押して、評価をしていただけると作者が喜びます。
また、ブックマークの登録をしていただけると、次回からは既読部分に自動的に栞が挿入されて読み進めやすくなります。
今後とも、本作品をよろしくお願いいたします。




