命短しⅢ
改まる広之に勇輝は緊張しながらも腰を下ろす。
寒い風が吹き抜けていく中で、広之の瞳の中には炎が宿っているのではないかというくらい真剣な視線が投げかけられていた。
「実は桜に相談を受けていましてね。再び、ファンメル王国に戻りたいという気持ちがあるようなんです」
元々、桜と勇輝が出会ったのは、王国の首都であるオアシスのギルドだ。彼女がいた理由は単純で、留学中の魔法学園での授業の課題として依頼を受けていた。
巫女としての結界術や陰陽師としての占星術や式神の扱いを勉強していた桜は、異国の魔法も学びたいという意欲が高く、それを両親も後押ししてくれた形になる。本人的には強制的に村の誰かと結婚する可能性がある儀式に巻き込まれる年であるということで、村から出ていきたいということもあったようだが。
「学費に関しては既に支払い済みではあります。問題は安全面という点でね。ここまで言えば理解してくれるますか?」
「もちろんです。俺も桜についていきます。むしろ、断る理由がありません」
桜とは恋人以上夫婦未満という関係が一番近いのだが、勇輝の事情を知った上で受け入れてくれた彼女に対し、出来ることならば何でもやってあげたいというのが勇輝の本音だ。
そこには当然、桜を守るというのは最優先事項として挙げられる。
「そうか。それは良かった。実は巫女長から一つ提案されていることがありまして。ファンメル王国使節団の帰国に合わせて、一緒に着いていくのはどうかという話が出ているのです」
「……それ、こちらから言ってどうにかなる問題ですか?」
王国の第一皇女アメリアに、近衛騎士十数名がいる使節団だ。他国の人間が留学の為に向かうという目的だけで乗れるとは思えない。いくら日ノ本国のトップである水皇や水姫が言ったとしても通る内容ではないことは明らかだ。
「最初は私もそう思っていましたよ。ただ、この件に関しては、あちらの意向もあるらしいのです。その対象は君の方なのですがね」
驚くべきことに、王国側は勇輝が乗船することをお望みらしい。
その理由を聞くに、一つは以前に勇輝が航路上に出現したクラーケンに有効打を加えていたこと。いくら魔法が使える猛者が集っているとはいえ、安全な状態を少しでも確保できるのならば取っておきたいのが護衛を務める者の責任である。
近衛騎士団の団長であるケアリーは、その情報を聞いて、光雲へと打診をしてきたという。
「もう一つの理由は私もよくわからなくてね。あちらの国のお偉いさんの何人かからお呼びの声がかかっているようです」
「お偉いさん?」
「魔法学園の学園長であるルーカス殿や錬金術師のロジャー殿、他にも宮廷錬金術師のエドワード殿に、国王様まで揃い踏みのようだ。――――勇輝君、意外と人気者ですね」
一体、その繋がりは何なのか、と珍しく広之が戸惑いを隠せずにいた。
一方の勇輝は、ルーカスやロジャーに呼ばれることには何となく心当たりがあった。ルーカスならば孫娘であるソフィのことだろうし、ロジャーであれば勇輝の着ている試作型の外套のことだろうと予想ができる。
問題はその他の二人だ。宮廷錬金術師であるエドワードはあまり良い印象を抱かない相手である。吸血鬼の真祖となったフランを巡っての一悶着以降は、互いに積極的に交流しようという意思はなかったはずだ。もし、あるとするならば、それはもしかするとルーカス同様にソフィに関連することかもしれない。
何しろ、人の身でありながら水精霊になっていたことを考えると、調査の対象になるのは当然だろうし、そのことを聞き取りしようとすれば、長期間一緒にいた勇輝が目を付けられることも納得である。
そして、一番の問題は国王であるファンメル三世だ。自国民でない素性の知れぬ冒険者を功績を上げたとはいえ騎士に叙勲したり、世界を左右するような情報をさらりと話した挙句、国家クラスの任務に起用したりするなど、勇輝としては国王に指名されるというのは心臓に悪いの一言に尽きる。
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