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異世界魔瞳探索記「あなたの世界は何色ですか?」~極彩色の光が見える魔眼を手に入れて、薬草採取から魔物討伐まで縦横無尽の大活躍~  作者: 一文字 心
第26巻 薄明の呪いに終止符を

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1972/2383

命短しⅠ

 山の向こう側へと太陽が消え、山際に橙の残光が最後とばかりに輝きを増す。

 森も田も何もかもが暗色に染まっていく中、それでも不思議と道を歩く男の影だけは輪郭がはっきりしているように思えた。

 白い息を吐きながら、家路へと急ぐ彼の前に四辻が現れる。ここを越えて、三町里もしない内に家が見えてくるはずだった。

 男の影が四辻へと差し掛かった時、不意に聞き慣れた音が耳に届いた。馬の蹄が地面を叩く、小気味のいい音だ。この辺りは日ノ本国の首都である海京へと続く道。田舎といえども四方位貴族の一角である東雲の領地にも繋がるということもあり、馬に乗って移動する武士というのも少なくない。

 道の真ん中などを歩いていれば、この暗さでは轢かれかねない。慌てて男は道の端へと寄り、敬意を表して頭を下げる。

 馬の音が聞こえて来たのは正面の方からで、そちらは東雲家の直轄領であった。東雲家は日ノ本国における食料に関する事業を担当する家となっており、農民たちは文字通り頭を上げられず、足を向けて寝られない存在といっていい。

 作物が収穫できなければ命に関わる彼らにとって、強い品種や害虫駆除の魔道具を開発してくれている東雲家は正に神といってもいい存在であった。

 男もこれから向かう宿場町の農民の一人であり、考えるよりも先に頭を下げたのだろう。


 ――――ビュオッ!


 冬の寒さをさらに際立たせる北風が吹き荒れる。思わず顔を庇った男だったが、耳に届いた音に違和感が残った。

 土埃に気を付けながら腕を下ろすと、いつの間にか馬の足音が止んでいることに気付く。


「――――あ?」


 ふと、目を開くと視界に馬の筋肉質な脚が飛び込んで来た。暗くはあったが、栗毛の艶の良い手入れの行き届いた馬であることは、素人目にもすぐにわかった。

 そんな上等な馬に乗っているのは、さぞかし位の高い人物なのだろうと上げかけた頭をぎりぎりで止める。


「な、何か御用でしょうか? わ、私めが知らず知らずの内に粗相を働いておりましたなら伏してお詫び申し上げます故、何卒、命だけはご勘弁を」


 逆に頭を深々と下げて、自分がやらかしていそうなことを脳内で思い返そうとするが、心当たりが全くない。何故、武士が目の前で立ち止まったか、見当もつかなかった。

 そんな中、男は恐ろしい音を聞く。わずかではあるが、金属質な音であった。武士の恰好にもよるが、真っ先に思い浮かべる物は刀だろう。

 血の気が引いた男のすぐ目の前に、想像していた通り刀の切っ先が突きつけられた。ほんの少しばかりの太陽の残光が一点だけ鋭く反射をして、男の網膜を焼く。


「あ、あ……」


 思わず顔を上げた男は恐怖に目を見開いて、喉から絞り出すようにして声を出した。一歩、二歩と後退り、枯れて小麦色になった草に足を取られて、道の外れへと尻もちを着く。

 震えながら男が見上げた場所にいた武士。その姿はとてもこの世のものとは思えない姿だった。

 兜こそないが甲冑を着込み、太刀を佩く姿は武士の威厳を表した立派な装備である。だが、それを着こんだ本人の肌は浅黒く、骨と皮しかないのではと思う程、やせ細っており、目は落ち窪んでいる。ただ、今宵は新月。まだ太陽の光がわずかに残るとはいえ、この後に訪れるのは星の光しかない暗闇だ。それにも拘らず、武士の瞳は魔法石でも埋め込んだかのように爛々と輝きを放っている。


「ひ、ひいぃ!? お、お助け――――」


 泡を食って村へと逃げ出す男であったが、反転した馬がすぐに追いつき、並走する。横目で見た男は、さらに仰天した。


「首が、ない!?」


 武士の駆る馬は半ば程から切断されたように、どこかへと消えていた。存在しないはずの頭部だが、何故か荒い鼻息だけが耳元に聞こえてくる。

 ここまで恐怖が重なれば、人は動けなくなるか鍛冶場の馬鹿力を発揮するかの二択だろう。

 男は後者だったようで全力で走り出した。馬も余裕で追い縋るのだが、四辻に差し掛かったところで急に速度を落とすと、そのまま、逃げていく男の背中を見送った。

 武士は刀を納めると、馬の手綱を軽く引っ張って向きを変える。空が留紺色に染まり、星々が瞬き始めると、そこには最初から何もいなかったかのような闇が広がっていた。

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