解決Ⅶ
そんな國明を見て、充明は目を細める。同時に、肌が痺れるほどの殺気が飛んできた。
「戦で使えるものは何でも使え。それが結果的に大勢の命を救う。そう教えたはずなのだが?」
神童と称された國明であっても、それはあくまで今の年齢からすれば飛び抜けているというだけ。巷では、その潜在能力は父をも凌ぐと評されるが、実際には二人の間には経験と言う名の隔絶した壁があった。何せ充明は南条家当主。國明も若い内から相当な修羅場を潜ってきているが、それをずっと続けてその座に君臨しているのが充明だ。それこそ正に潜って来た修羅場の数が違う。
心刀の扱い一つとっても違いは大きい。炎の熱量、展開範囲、操作など、どれをとっても國明は勝てる気がしない。剣術の腕ともなれば、それ以上の純然たる力の差があった。
「それが、自身の目指す強さですので」
「ならば、それこそ力で示さねばならない。力無き者の戯言などと一笑に付されぬようにな」
充明は立ち上がると、國明の横を通り抜けていく。襖に手をかけたまま、静かに語りかけた。
「――――此度の任務は上々とは言い難いが、お前にこのまま任せられると判断した。あと数日だとは思うが、私は先に領地に戻る。何かあった時は己を信じて行動しろ。失敗した時の尻拭いくらいはしてやる。存分にやれ」
「ありがとうございます」
正座のまま振り返った國明は深々と頭を下げる。その姿を肩越しに見た充明は何を思ったのか穏やかな目で笑みを浮かべた。
「……戻って来た時のお前の顔を見るのが楽しみだ」
襖が静かに開閉され、充明の足音が遠ざかっていく。それが聞こえなくなった後、國明は大きく息を吐き出した。
父と子の関係以前に武士としての格の違いを改めて思い知らされる。それは畏怖であり、嫉妬であり、敬愛でもあった。國明にとって充明は理想であり、同時に否定するべき存在でもある。
「俺は俺の道を行く。その為には、この程度のことで止まってはいられない」
父である充明は単身で迷宮に潜り「人型」の鬼を葬ったことがあると言われている。この人型というのは、洞津に現れた封印塚に眠っていた強大な力をもつ鬼、それをダンジョンが模倣した存在ではないかと推測されていた。
國明はその父を師と仰ぐと同時に、自らが越えるべき壁として認識している。そして、その為には自分の力があまりにも未熟であることも理解していた。
「幸い、戦いの参考になる奴はいる。おい、時間が空いたら、久しぶりに付き合ってもらうぞ?」
國明は目の前に置かれた自身の心刀を見下ろして告げた。
心刀の心金部分には、幻覚で何者かが襲い掛かって来る呪いがかかった金属が使われている。それは心刀になっても、効果を失わずに自分が戦った相手を再現することが可能だ。
「何せ、あの機動力に謎の魔眼と妖術まで使う。再現しきれないだろうが、相手にとって不足なし。俺の成長の糧になり、この国の糧となってもらわないとな」
國明は心刀を掴むと、机の方へと向かう。今日まで起きた一連の出来事を記録し、次の任務に生かすためだ。
今、こうしている間にも魔物は跋扈し、迷宮の解明が急がれている。國明が望むのは魔物や賊に脅かされず、国外からも攻められない平和の国。その為には、圧倒的な武力が必要になる。
目的や方向性は若干の違いがあるものの、南条家が代々引き継いできた願いは変わらない。自分が無理ならば、次の世代へ。それが無理ならば、その次へ。その際に、少しでも被害が少なくなる手段や道具を一つでも増やす。
國明もまた同じ思いで筆を取る。例えこの先、ほとんど誰にも見られることが無かったとしても、いつか誰かの救いになるのだと信じて。
「――――この身はすべて、この国の未来の為に」
巫女長のように未来が見えずとも、自分に出来ることはある。國明はその信念の下、文字を綴り続けた。
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