解決Ⅲ
勇輝はまさか本当に自分の考えが当たっていたら、などと密かに興奮をしていたが、水龍は首を横に振った。
「時空移動はかなりの高度な術式になる。少なくとも、この国で時間を操れる術式を身につけた者を僕は見たことがないね」
恥ずかしさに赤面する勇輝であったが、水龍はだが、と話を続けた。
「発想としては悪くないかもしれない。普段は僕たちの目の届かない空間にいて、時が来た時に復活という名の転移でこちら側へと出現する。もしかすると、二度と復活させないための方法が見つかるかもしれない」
その為には、出現地点や出現直後の観測が絶対であるという条件が必要と付け加えられる。
今まで誰も魔王の出現を観測していないのであれば、そこに彼の者の弱点が隠されている。そう考えるのは不思議ではないし、仮に違ったとしても今後の魔王対策に役立つ可能性は大いにある。
例えば、魔王の出現直後に勇者の攻撃を当てて即死させる、と言った戦法も可能かもしれない。或いは、不完全な魔王に攻撃をすることで勇者でなくても魔王を簡単に殺し、後の百年の安寧を確保することも可能になる。
「ふむ、その為に必要なのは位置を予知し、現場で見分けられることなんだけど――――君、自分が一瞬で古墳級の墓穴を掘っているか理解してる?」
「うぇっ!?」
水龍の呆れた声と視線に勇輝は自分でもどこから出たかわからないような奇妙な声が漏れ出た。
水龍が言っているのは、もし魔王になる前の何かしらの生物や転移して来るだろう場所を特定するというのならば、勇輝の魔眼が必要になるかもしれないことであった。
勇輝が元の世界に無事に戻りたいという気持ちを見抜いていただろう水龍は、その気持ちとは真逆の発言を指摘せずにはいられなかったらしい。
「口は禍の元とも言う。おかげで僕としては良い考えを聞くことができたが、それが果たして君の為になるかは別問題だよ。まぁ、そこが君の良いところなのかもしれないけど――――いつか、下らない一言で命を落とすことになるぞ」
水龍からの警告に下がった頭を上げられない勇輝。自分から危険に首を突っ込むつもりはなく、厄介ごとに巻き込まれるとは一体何だったのか。自分自身が呼び込んでいる状態を指摘され返す言葉もない。
「まぁ、君の場合、否が応でも厄介な事件に巻き込まれる体質っぽいから、ちゃんと鍛錬だけは積んでおいた方が良いかもね。必要ならば水皇に僕から言っておくから」
「い、言っておくって何を――――」
勇輝が動揺を隠せずにいると、背後の階段を上る音に気付く。
勇輝も水龍も黙って、そちらの方に振り返ると光雲が姿を現した。正座して両手をつくと同時に軽く頭を下げると口を開いた。
「山の怪異の報告中に失礼いたします。國明殿から水姫様への報告が終わりましたので参りました。こちらの方も滞りなく終えられそうでしょうか?」
水龍は口を閉じて、勇輝に顎で返事をするように指示を出す。
慌てて、勇輝は光雲の方に向き直ると同じような姿勢を取って、報告が既に終わっていることを告げた。
「それは良かった。水龍様、水姫様が下で待っておられます。お戻りになられますよう、お願いいたします」
水龍は小さく息を吐くと勇輝を一瞥した。
「――――また、色々と世話になるが、その時は頼むぞ」
音の振動ではなく、頭の中に直接音が送り込まれるような声で水龍は語りかけた。心刀や桜の式神が使う思念を送る会話方法なのだろうが、急に切り替えられると心臓に悪い。
跳ね上がる心臓を深呼吸で押さえつけ、水龍が去るのを待つ。恐る恐る顔を上げると、頭を下げたままの光雲が視界に入る。
勇輝と違い、さらに慎重に頭をゆっくりと上げた光雲の表情は、どこかほっとした様子だった。
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