久能Ⅶ
日ノ本国の水龍やファンメル王国のユースティティア、聖教国サケルラクリマの星神のように神と崇められる存在がいるのは理解していた。しかし、人の姿で目の前に現れ、直接話したり触れたりするという存在は初めてだ。それは勇輝だけでなく、他の三人も一緒のようで驚きを隠せていない。
「えっと、桜は人間の形をした神様とかは見たことは……」
「この国で一番有名な水龍様ですらほとんど見たことがないのに、他の神様を見る機会なんてあるわけないよ! あ、でも付喪神とかなら見たことはあるけど……ううん、でも人と同じ姿の神様は見たことないよ」
日ノ本国の場合は、神様と呼ばれる敷居が低く、場合によっては木霊ですら神様として扱われる。その為、桜は「形を伴って善意の下に活動する神である」と久能を称した上で、他に会ったことはないと言い直した。
「僕も初めてだね。ユースティティア神のように声を聞くことができても、姿を見るとなると、教会関係者でもほとんどいないんじゃないか?」
神からのお告げなどで声を受けることはあっても、姿は見せない。そこにはある意味、人と神とが絶対に交わることのない境界線があると言っても過言ではない。
フェイからすれば、日ノ本国が神と言う存在に近づき過ぎていると言いたそうにも見える。
「植物に関する神様ですか。有名なのは木花咲耶姫様ですが、そもそもお姿からして男性ですし、大山祇神様とか?」
光子も幾つかの神の名前を列挙していくが、勇輝はその名前を聞いて、だんだんと胸が痛くなっていく。
何せ、異世界とはいえ、自分が住んでいた世界と全く同じ神の名が光子の口から告げられていくのだ。最早、勇輝はこの世界に対する確信に近い推測が浮かんできていた。
「(この世界は俺と同じ世界の人が流れ着いてできた世界だ。僧正さんのような人外も、桜たちのような人間も何もかもが神隠しに遭ったように)」
最初に別の世界があり、暮らしていた人がいたのではなく、あくまで空間だけが存在し、人々や妖が後から入って来た。そして、元々住んでいる存在がいたのだとすれば、それは魔物と呼ばれるこの世界の生物なのかもしれない。
「(いや、でもそうするとダンジョンから出て来る魔物には、俺たちの世界由来の存在もいる。流石に飛躍しすぎたか?)」
変に勘繰ってしまい、さらにその先のことを考えようとするのは勇輝の悪い癖だ。今、大切なのは久能が何者なのかという点であり――――
「――――久能ってなんで名乗ったんだろう?」
勇輝がいた世界で神に関する場所で久能と言えば、勇輝の場合は久能山東照宮が真っ先に思い浮かぶ。尤も、祀られているのは徳川家康の為、彼がわざわざ神となってこの世界を歩き回っているとは考えにくい。
「(いや、死んだはずのひい婆ちゃんがいるんだから、そういうこともあり得るのか?)」
ふっと勇輝の思考が止まったところで、横にいた光子から小さな叫び声が上がる。
「もしかして、くくのち様?」
「あ、確かに、そうかも!」
光子の声に、桜も賛同の声を上げるが、勇輝とフェイは聞き慣れない名前に首を傾げるしかできない。当然、その表情に気付いた桜は嬉しそうに勇輝たちの顔の高さまで飛び上がり、両手を広げて説明する。
「くくのち神様は漢字だと『久久能智』って書く、木の神様なの。さっき、みっちゃんが言っていた山の神様である大山祇神様のお兄さん!」
「……もしかしてだけどさ、その神様の両親って」
大山祇神の名前は聞いたことがある。山の神と言う大自然を担当するその兄弟であるというのならば、その上に来る神はもう限られていると言っても良い。
「もちろん、伊邪那岐様と伊邪那美様に決まっているでしょう?」
神話上、相当な古き神であることに勇輝は頭が痛くなってしまった。
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