久能Ⅳ
周囲にまばらにあった葉の落ちた木々。一見すると枯れ木に見えるそれらが、花のつぼみをつけ始め、あっという間に開いていく。
「木に花が……!? 花咲か爺じゃああるまいし、一体何をした?」
國明が食って掛かるように久能へと詰め寄るが、寸でのところで甲冑武者が割って入る。首を肩越しに横に振っていた。
「原理は似たようなもの。これに入れてあるのは、木々の余った生命力。冬を越した後、このように新たな命を紡ぎ出すための力の塊。儂はそれを集めて、管理する役目を負っているのだ」
「……植物に関することと言えば、東雲家の領分だな。その配下ということか」
「いやいや、儂はそんな大層な肩書など持っておらん。ただの植物好きなお節介爺じゃ」
印籠を仕舞い、笑顔で応える久能。そんな彼の頭上から花弁が一枚、また一枚と舞い落ち始めた。
「もう、花が――――」
「そこまで力を分け与えたわけではないから仕方があるまい。しかし、これで嘘ではないことを信じて貰えたかな?」
久能は腰の後ろで手を組んで、花弁を愛おしそうに見つめる。
その表情を見て、勇輝は久能が老人の筈なのに、目だけは生まれたばかりの赤子のような透き通る瞳であることに気付いた。
「さて、宣言通りにこれを見つけてくれた若人よ。いずれ、この礼はさせてもらおう」
「あー、別に大丈夫ですよ。偶然、見つけたような物ですし」
彭侯の事件のついでに見つかったと言っても過言ではない。それでお礼を、と言われても戸惑ってしまう。
逆に久能の方も礼をせねば気が済まないようで、困った表情を浮かべて顎を指で撫でて悩んでいるようであった。ひとしきり、勇輝やその周囲の人の顔を見渡した後、不意にフェイのところで動きが止まった。
「そこにいるのは、この国でもなかなか見ない者だな。この前、案内してくれた時も一緒にいたが、お主の友人か?」
「え? はぁ、そうですが……」
「そうか、そうか。それなら、これが良いじゃろう」
何を思ったのか、久能は再び印籠を取り出すと、何かを取り出す様な動きをして握り込む。そのまま、屈託のない笑顔でフェイに近づいていくが、当の本人であるフェイは警戒して数歩下がっていく。
「ご、ご老人? その……一体何をするつもりですか?」
「長く生きた先輩からのおせっかいじゃよ。遠慮せずに貰っておくが良い。ほれ、雪童子たち。少し手伝っておくれ」
久能の言葉に従い、雪童子たちは素早くフェイの足元に集まっていく。雪達磨は仮初の体とはいえ、踏み潰すには忍びない。フェイは足を止めて、殺到する雪童子たちを踏まないようにと立ちすくんだ。
「えいっ!」
雪童子の可愛い声と共に、フェイの頭上から雪の塊が降り注ぐ。先程、咲かせた花たちを見上げた時にはなかったものだったので、恐らくは雪童子たちが作り出したものなのだろう。まるでプールから出てくるように勢いよく雪から顔を出すが、驚いている様子は全くない。
「ぷはっ! 急に何を――――」
フェイが両腕を上手く使って、何とか上半身だけを脱出させることに成功する。拳大の雪を飛び散らせながら、大きく口を開けて現れたフェイに久能は待っていたとばかりに手を伸ばした。
「むぐっ!?」
「異国の者であっても源流は同じ。それならば、十分力になるのは、先の彭侯で実証済みじゃ。安心――して――」
久能の顔の左右に二振りの刀が現れる。
一振りは勇輝。友人であるフェイに無理矢理何かを飲ませようとする久能に、流石に黙って見てはいられなかった。
そして、もう一振りは國明であった。止めに入った甲冑武者を振り切り、勇輝同様に怒りの表情を浮かべている。
「お礼って言うのは無理矢理押し付けるものじゃないぞ。ましてや暴力紛いなことをしてまでな」
「ほうほう、これは恐ろしい。ただ、こちらも必要だと思って渡しただけのこと」
そう告げた久能は、渋々と言った様子でフェイから手を放した。
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