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異世界魔瞳探索記「あなたの世界は何色ですか?」~極彩色の光が見える魔眼を手に入れて、薬草採取から魔物討伐まで縦横無尽の大活躍~  作者: 一文字 心
第4巻 消えた焔は地の底に

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救済の手は剣を掴むⅨ

 血を流した右腕を押さえながらサクラが杖を振るうと、岩の槍が八つ。竜巻の外側からアイリスの頂点に向けて、交わるように突き出た。相当な微調整をしたのだろう。ほとんど隙間なく作られた()()()は、ほんの少し水が染み出すものの、アイリスがコントロールしていた水の大半を隔離することに成功した。


「腕を上げたね。ここまで精密に組み上げるのは、上級生でもなかなかいないよ」


 サクラを褒めながらクレアは天井を見上げる。勢いを失って落ちてきた水をアイリスに操られないように、クレアの一振りで遠くへと吹き飛ばした。


「これなら後は何とかなりそう。これを破ってくるだろうから、そこが勝負」


 ユーキに目線を合わせると手で、後ろへ回り込むように指示が出る。足音を立てないようにユーキが回り込んでいくと、その途中で岩がきしむ音が響き始めた。


「クレアさん! アイリスも同じ魔法で中からこじ開けるみたいです」

「よし。どこを開けようとしてる?」

「わ、私から見て左側です」


 魔力を込めて岩の維持に必死なサクラの答えに、素早くクレアは判断を下した。


「フェイ! そろそろ回復した?」

「はい……なんとか」


 いつの間にか、目を覚ましていたフェイは腹を押さえたままクレアの隣に並ぶ。


「ユーキ! フェイ! 岩壁をサクラがわざと崩す! 隙を見てマリーを奪還!」


 その言葉を聞いて、サクラが傷口を押さえていた手を離し、右手側を指差した。それを確認したユーキとフェイが走り始める。

 ほんの少し残っていた魔力を魔眼に回すと、徐々に消えていく黄色の光の隙間から青い光がいくつか飛び出ようとしていた。


「フェイ! 水が飛んでくるぞ! 避けろ!」

「そっちこそ!」


 互いに声をかけた瞬間、片方は岩が岩を突き破り、もう一方は崩れた石礫を吹き飛ばしながら勢いよく水弾が放たれた。それに対しユーキは右腕を、フェイは剣を構えた。


「(威力は低くていい! 広範囲を撃ち抜ければっ!)」


 普段の放つガンドよりも収束を弱めると拳位の大きさだった弾丸が、上半身を包むくらいまで大きくなる。点ではなく面で。もはや弾丸というよりは大玉のように見えるガンドは、ユーキの指を離れた瞬間に予想外の反応を見せる。

 一メートルも進まない内に小さな塊に分かれ、目の前に広がる岩へと激突し弾き飛ばしていく。それは普段撃っていたのがハンドガンやライフルに例えると、今回の場合はショットガンに近い。ユーキの目の前へと迫っていた瓦礫は半減し、地面へと落ちていく。そして、予想以上にユーキの指への負担は大きく、曲がってはいけない方向へと人差し指が反動で向きかけたほどだ。痛みに反応し思わず左手で押さえて指を元に戻す。

 痛みをこらえて見上げた先には、風穴があいた岩の棺の向こうで横たわるマリー、そして、その向こうにいるアイリスと眼が合った。互いに互いの異様な眼を認めながらも、一切の躊躇なく行動を起こす。

 アイリスは杖を、ユーキは右腕を掲げ、水弾とガンドを放つ。迫りくる水弾六発をユーキは同じくガンドで撃ち落とした。


 ――――一、二、三、四、五。


 慣れない連射ではあるが、それでも水球を落とすときにコツを掴んだのか正確に射抜く。浮かんでいる最後の水弾を前に刀を握ったままガンドを放っていた腕の動きが止まった。

 オーウェンを助けるときに一発。今の水弾で五発。()()()()()()()()()()()()()()

 ユーキが六発しか連続で撃てないことをアイリスは知っている。だから最後の決め手になる水弾も六発用意していたのだろう。或いは、万が一のことを考えていたのかもしれない。それを証明するかのように、その背後に()()()()。七発目が既に控えていた。

 ほんの少しの時間差をつけて、二つの水弾が放たれる。盾を持たず、撃ち落とす弾も尽きたユーキに残された道は逃げることのみ。

 しかし、それも無理に連射をしたせいで腕が跳ね上がり、すぐに移動できる状態ではない。


「これで、チェックメイト」


 詰みを宣告されたユーキは、それでも諦めずに手を動かす。なぜならば、ガンドの反動で腕が跳ね上がった時の対処を既に知っていたからだ。


「――――遅いっ!」


 上がった腕は即座に振り下ろされ、ユーキの胴体のど真ん中に撃ち込まれるはずの水弾は切り裂かれた。地面の激突を避けるために僅かに斜めに奔った剣閃は、その勢いのまま翻って続く七発目も両断する。

 真偽は定かではないが、かつて存在したと言われる剣豪が放った剣技にそれは酷似していた。その剣豪の名を佐々木小次郎、その剣技の名は燕返し。燕が翻るように振り下ろした刀を素早く、振り上げる高速二連撃。

 身体強化で無理やり底上げした能力が功を奏したのか。素人ながらも奇跡的な連続技で切り抜けたユーキにアイリスの動きが止まる。


「この程度、あいつに比べたら、まだまだだ」


 ユーキの脳裏に依然襲われた月の八咫烏の姿が浮かぶが、それよりも先にとマリーへ肉薄する。慌てて杖を構えなおして周りの水をかき集めるアイリスの視界が急に明るくなる。

 アイリスを囲んでいた岩がすべて崩壊し始めていた。上から崩れる岩を最後にかき集めた水で吹き飛ばす。その隙をついて、風穴が空いていた反対側の穴からフェイが勢いよく滑り込んだ。体を投げ出してマリーと地面の間に手を差し込むと、思いっきり抱きかかえて前宙。その勢いのままスライディングする。

 アイリスが掴んでいた腕はその勢いに着いていけず、マリーを手放してしまった。

 でこぼこの激しい地面にもかかわらず、体を投げ出したフェイの鎧は地面と激突して僅かに火花を散らせたが、その持ち主と救出者をしっかりと守りぬく。ユーキの足元で転がった二人にアイリスが棒立ちしていると、いつの間にか近づいたクレアが杖を突きつけた。


「少し頭を冷やすと良い」


 アイリスの視界が黒く染まり、体が崩れ落ちた。

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