久能Ⅱ
「消す」という表現は、この場面において「殺す」と同義である。そうなると、何かしらの攻撃を仕掛けて来ることが考えられる。勇輝は魔眼で周囲を見渡しながら、近くのフェイに聞こえるように小声で話しかけた。
「何か周りに危険そうなものはいるか?」
「いや、魔物とかの気配はないね。それに危険だったら、真っ先に雪童子たちが反応しているはずだ」
勇輝はフェイに言われて雪童子たちを見るが、騒ぎ立てる様子はなく、彭侯の言葉を聞いて首を傾げているか、彭侯が話していること自体に興味をもっているかだ。
勇輝の魔眼でも騎士団で培ったフェイの経験でも見つけることはできない危険。それは以外にも眼の前に存在していた。
「どうやら、君の眼も節穴だったみたいですね。では、一つだけ手がかりを与えてあげよう。この彭侯が何故、私の声で話しているか、まだその意味が分からないのかな?」
大龍はよほど勇輝に恨みを抱いているのだろう。わざわざ丁寧な話し方に戻し、上から目線で言葉を紡ぐ。
「――――まさか、彭侯を使い魔に!?」
桜が驚いて声を上げる。そして、巫女たちも顔が真っ青になり始めた。
何かまずいことがあるというのは理解できても、どのようにまずいのかが理解できない。勇輝はそれを桜に問うと、彼女は焦ったように勇輝の服を引っ張った。
「チビ桜と同じで、使い魔は外部から魔力を供給できるの。また、彭侯が力を取り戻して暴れ始めるかも!」
「だ、だけど、光子さんが結界を張ってくれてるから……」
結界を見た勇輝は、顔から血の気が引く。そこには今まで以上に緑色の光を放つ彭侯がいたからだ。
肉眼に戻して確認すると、口から泡を吹き、四肢を痙攣させ、今にも息絶えんとしているようにも見える。
「ははははは、こちらには大量の気を扱う術がある。それを一気に流し込んでやれば、ちゃちな結界など紙同然。証拠のこいつ諸共、全員まとめてさっさと死ね、ばーか」
糸が切れたように頭が垂れ下がった彭侯を見て、巫女たちの何人かが悲鳴を上げる。
「落ち着きなさい! 全員で結界を何重にも張り巡らせた上で上空だけ薄く展開すれば、力を逃がすことができます!」
光子が大声で指示を飛ばすが、一度、パニックになってしまうと平常心にはなかなか戻ることができない。苦虫を噛みつぶしたような表情になりながらも光子がお札を何枚も取り出して、彭侯へと向き直る。
「――――!? 一体何を?」
そんな時に光子の前に片腕を差し出して、手出しせぬよう止める男がいた。それはずっと勇輝たちの班に所属し、無言を貫いて護衛し続けていた甲冑武者である。
刀をゆっくりと抜き放ち、結界などお構いなしに切っ先を彭侯へと突き出した。あばら辺りに突き込まれたそれは音もなく刺さると、そのまま甲冑武者によって天高く掲げられる。
既に彭侯から放たれる光は、勇輝がガンドを最大まで溜めた時と同等クラスにまでなっていた。彭侯の放つ衝撃波として放たれれば、木々は折れ、地面にはクレーターができるほど陥没し、人の形など残らず吹き飛ぶだろうと頭の片隅にイメージが過ぎる。
しかし、甲冑武者は一切恐れることなく、刀を掲げると低い声で呟いた。
「――――罪と共に一切合切灰燼と帰せ!」
直後、緑色の光を塗りつぶすが如く、紅蓮の柱が出現した。
揺らぐこともなく、ただ真っ直ぐに天に向かって炎が伸びている。あまりの光に皮膚が焼けると思って顔を庇うが、不思議なことに勇輝は全く熱を感じなかった。
「この感じ……國明と同じタイプの心刀の能力か!?」
國明も炎を刀に纏った攻撃を何度か使っているのを見ている。ただ、目の前に広がる光景からわかることは、甲冑武者の方が國明よりも遥かに洗練された技であるということだ。
國明は炎が揺らめき、時折形が崩れてしまう。それに対し、甲冑武者の炎は文字通り「炎が刀の形」をしていた。
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