封印結界Ⅵ
「さっちゃんから教えてもらったんです。彭侯は大陸の蓮華帝国で発見された珍しい魔物だと」
「家の書物を漁って探したら載ってたの。かなり時間がかかったけど」
浮遊したまま両手を腰に当てて胸を張る桜に、光子は微笑して國明や他の集まって来た家臣団を見渡す。
「勇輝さんは、蓮華帝国の貴族である李家の方に襲われたことを覚えてますか?」
「え? いや、一応……それも話したの?」
桜に視線を向けると、桜は力強く頷いた。
「うん。文献で彭侯って確信を得た後に、あの人が使った魔法と少し関係があるかもしれないと思ったから」
「なんとか龍さん、でしたっけ? とりあえず、その方が使った術は言葉を聞かせることで催眠をかけるものだったとか。それならば、この彭侯も音さえ聞かなければ反射されないと思いまして」
光子と桜が言うことを纏めると、彭侯の能力は「詠唱を聞いて、その魔法を反射する」ことではない。「詠唱を術の使い手本人に聞かせる中で、暗示をかけ、術の制御を魔物が思った通りに再発動させたり、操作したりする」ことであるというものだった。
「え、じゃあ、その耳の周りの結界は?」
「暗示封じの結界です。即興で作りましたが、要は音が届かなければいいのですよね。それならば、空気の振動を遮断するような結界を作れば解決です。私たちにとっては耳栓を結界で作るのも修行の一環で最初の方に覚えさせられますから」
「どんな修行だよ……」
僧が座禅などで瞑想する様に、彼女たちも音や光を絶って精神を鍛えるという修行があるのだが、それを知らない勇輝からすれば、耳栓を作る結界と言われても混乱するだけであった。
ただ、音を使って催眠状態にするという点においては、自分がかけられたことがある手前、とても納得できる説明であることには間違いない。
「――――だとしてもだ。一言説明があってもいいだろう。もし間違っていたら全滅していたのかもしれんのだ」
「一応、こちらの護衛の方に話はしたんです。そしたら『それくらいで倒れる様な鍛え方はしてないから、遠慮せずにやってよい』と」
「なっ――――」
國明が絶句したまま、光子の横にいる甲冑武者に視線を移す。國明の何とも言えない表情を受けても微動だにせずに立っている彼は、言葉も発さずに國明の言葉を待っているようだった。
「――――そうか。なら、いい」
「(良いんだ!?)」
てっきり、怒るなり拳の一発でも入れるなりするかと思っていた勇輝だったが、潔く引いてしまった國明に目を丸くする。
そんならしくない姿の國明の顔には、怒りの色は一切なく、むしろ若干の怯えの色が見えるようであった。
「(え、この人、もしかして、國明よりも強かったりする? 確かに体に纏った光は、國明や他の家臣団よりも落ち着いているような気もするけど……)」
勇輝が戸惑っていると、フェイが彭侯を捉えている結界を指差して問う。この魔物をどうするつもりか、と。
「とりあえずは、城の研究班の方々に回した後、ギルドへ引き渡すつもりです。最終的に得られる情報を得た後は殺処分ですね。いくら木霊とはいえ、環境に害をなす魔物であれば仕方がないでしょう」
結界の強度も光子が術を解こうと思うか、放置しても十数時間はよほどの力を外部から加えない限り壊れることはないという。このまま、城まで連行する分には問題がないだろう。
「いや、問題があると言えばある」
「え? もう魔物も捕まえたし、みっちゃんの結界術にかかったら多分、抜け出せないよ?」
「いや、そっちの心配じゃない。これの心配だよ」
そう告げた勇輝は國明から渡された印籠を軽く上下させた。
久能は勇輝たちに印籠をどこかわからないが落した。宿場町や山の中を歩いていたので、そのどこかであるとも言っていた。
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