封印結界Ⅳ
「フェイ! 後は頼んだ!」
地面を蹴る足に体が前へと送り出される。加速が始まるわずかな時間で勇輝は叫ぶと、踏み出した足の裏で魔力を爆発させた。
高速で景色が流れていく最中、勇輝の思考は加速し、はっきりと周囲の動きを認識する。だんだんと迫る彭侯の皺に塗れた人の顔が、大きく歪むのが分かった。
「これで――――!?」
現時点で出せる最速。それでも、彭侯の反応が上を行った。勇輝が刀を抜こうと右手を柄に添えた瞬間、緑色の光が全方位に向かって再び放たれようとしていた。
このまま、相討ち覚悟で突っ込むのか、後退してから突撃を繰り返すのか。一瞬、勇輝の中に迷いが産まれた。高速で思考していても時間が止まるわけではない。こうしている間も光は膨らみ、衝撃波が周囲に放たれようと限界を迎えているのがわかった。
「――――あら、流石に同種の技を使い過ぎではないですか?」
正面から飛んでくる攻撃に備え、顔面を守ろうと右手を掲げた瞬間、光子の声が耳に届いた。
同時に、彭侯の周囲へと球状の結界が出現する。白い光を放つそれは完全に彭侯を覆うことに成功していた。
しかし、彭侯もその程度で止まるわけにはいかない。このまま、何もせずにいれば迫りくる刃に両断されてしまう。それならば、触れられない結界ごと吹き飛ばしてしまえばいい。
そう考えているかのように彭侯の放つ光の量がさらに増え、臨界点を迎えた。雷が落ちたような眩い光が放たれる。遅れて衝撃波がやって来ると身構えて、勇輝は歯を食いしばった。
「――――は?」
引き延ばされた時間の中で、薄く開けた瞼の先に緑色の光は映らない。いや、正確には白い結界の中で彭侯が放った緑色の光が反射していた。
自ら放った衝撃波に全方位から襲われた彭侯は、四肢が砕けて折れ曲がり、ぼろ雑巾のような格好になりながらも、身体を再生させ始めている。
「そこ!」
こんな絶好の機会を逃す勇輝ではない。右手で柄を握った勇輝は、そのまま右手と共に体を伸ばし、すれ違いざまに彭侯の背中――――印籠らしき光があるすぐ横――――を切り裂く。
「斬った場所の尻尾側に何かが埋まってるはずだ! それを取り除けば再生も止まる!」
勇輝は勢いを止めきれずに滑りながら、フェイへと呼びかけた。
だが、勇輝の攻撃はあまりにも早すぎてしまった。フェイは身体強化を全開で駆けて来てはいたものの、彭侯との間には少しばかり距離がある。
そうしている間にも、勇輝が作った傷も回復し始めており、フェイが辿り着くまでに残っているかどうか怪しいと思われた。
「くっ、こうなったら、もう一度――――」
振り切った刀を脇構えで、再度、加速しようとする勇輝。そこに國明の声が割り込んだ。
「いや、これで終わらせる!」
フェイよりも早く駆け付けた國明が、素手で彭侯の背中に手刀を突き入れた。血飛沫ではなく、勇輝の眼には緑色の燐光が激しく噴き出したように見える。
國明は左足を彭侯の腰に置くと、そこに体重をかけて右手を引っ張り出した。鷲掴みにしていたそれは予想通り印籠だった。漆が塗られており、木漏れ日を照り返して、美しい光沢を放っている。
「手こずらせてくれたな。とりあえず、こいつは処分しないとな」
左足で彭侯を地面に蹴り出すと、國明は左手の心刀と右手の印籠を持ち替えた。切っ先を彭侯へと向け、炎で焼き尽くそうとする。
そんな中、辛うじて四肢を再生し終わっていた彭侯は、転がるようにして切先の延長線から逃げ出した。
「ちっ、まだ動くか。だが、今までほど素早くはない。かかれ!」
國明が号令をかけると、家臣団たちが彭侯に向けて走り出す。國明の言う通り、動きが鈍くなっている為か、単発の衝撃波を放とうと彭侯が顔を向けても、放つ頃にはそこに誰もいないという状況だ。
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