封印結界Ⅰ
木の中から國明が彭侯を追い出して十分。未だ一撃すら与えることができずに、勇輝たちは彭侯を追い回していた。
結界は魔物ではないものは通ることができるタイプの為、國明の炎で酸欠になることはないが、それでもかなりの人数の息が上がっている。
「こっちの狙いが読めてるのか? 全然、思い通りに誘導できない!」
「仕方ない。炎でも道を塞いでやる。こそこそ木に隠れるような奴だ。火が弱点だろ!」
勇輝が弱音を吐く中、國明は心刀を振るって、炎の壁を作り出す。流石の彭侯も火の中へと突っ込む勇気はないようで、足が一瞬止まった。
そして、その一瞬の隙を見逃す理由はなく、フェイや家臣団の数人が火の壁の中へと追い立てるように得物を振るう。白銀の閃光が迫る中、彭侯は二つの炎の壁の間へと駆け出した。
「そこを開けろ! ここで仕留める!」
國明が追い立てた者たちに退くよう声を張り上げた。
この先に待つのは桜が用意する岩の槍による壁と光子による結界の壁。後はそこに逃げ込んだ彭侯を煮るなり焼くなり自由にすればいい。
「――――そこ!」
桜の掛け声と共に双璧が出現する。炎の壁を抜け切ろうとした矢先、地面を揺らして、聳え立った岩の槍。炎の壁を一部呑み込んで発動したのか、僅かに火が燻っていた。
しかし、彭侯もそれで止まるほど愚かではなかった。結局は炎の壁の延長。むしろ、触れることさえ恐れていたであろう炎よりも触れる岩の槍の方が都合が良かったとさえ言える。
故に前方に展開された光子の結界を目視したと同時に岩の槍を駆け上がって回避する。
「あら、私が作れる結界が一つだなんて思っていないでしょうね?」
「ギャンッ!?」
岩の槍の遥か上へと跳躍して、逃れようという魂胆だったのだろう。だが、その先に待っていたのは、光子が展開した別の結界。
ただ十分間も手をこまねいていたわけではない。時間をかけて、そこから逃れられない結界を一つ二つと用意していたのだ。
見えない天井に激突したように落下する彭侯。だが、その先には光子が投げたお札が空中で静止していた。
「さっき、さっちゃんに言われて考えてたの。結界を攻撃に使うって、どうすればいいか。答えがついさっきわかった。結界を無理矢理に当てに行くんじゃない。相手が想定していない場所に急展開したり、避けられない場所に発動させたりすればいい。そう、今のあなたみたいにね」
空中から落ちる彭侯は、自らの足で蹴るものがない以上、そのまま落下し続けるしかない。お札を中心に半径一メートルの球状の結界が展開される。それに触れれば、さらに彭侯はダメージを負うことは避けられない。
「はっ、なかなかやるじゃないか。だが、念には念をってな!」
そこへ國明が炎を纏った心刀で突撃する。仮に結界が不発に終わっても、自分が仕留めれば問題はない。その考えは間違っていない。
事実、球状の結界に触れた彭侯は吹き飛びこそしたが、未だ息があり、動くことができるようであった。生まれたての小鹿のように足を震わせて立ち上がり、何とかして離脱しようとしている。
「させるか!」
上段から放たれる炎を纏った一撃。ただし、その纏った炎の大きさは今までの比ではない。長さだけでなく、幅もかなりあり、刀と言うよりは炎の棍棒を振り下ろすのに近い。
その姿を見た勇輝は、國明の狙いに気付く。
「まさか――――封鎖された空間全て焼き尽くすつもりか!」
「当たり前だ。今度こそ逃がさずに仕留めてくれる!」
仮に彭侯が加速をしたとしても、被害を最小限に抑えるには炎の中に自ら突っ込む形になる。それを魔物である彭侯が冷静に考えて、実行できるか。
答えは否であった。ふらつきながらも立ち上がった彭侯は、目を見開くとそのまま紅蓮の炎の渦へと呑み込まれていく。
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