彭侯Ⅴ
一夜明け、再び勇輝たちは山の中へと戻って来ていた。既に雪童子たちは、勇輝たちの接近を感知していたようで、踏み入れて十分もしない内に何体かが行軍の列へと駆け寄ってくる。
「見つけた! 見つけた!」
「朝っぱらから五月蠅いな。やっぱり雪童子って言うくらいだから、精神年齢も低いのか?」
國明がわざとらしく片耳を塞いで愚痴をこぼす。そんな彼には目もくれず、雪童子たちはフェイの方へと向かっていた。
「おはよう。お迎えに来てくれたのかな?」
「お迎えー!」
フェイが呼びかけると、雪童子たちは跳ねながら肯定の意を示す。
昨日、彼らと別れる際に一つ決めごとをしていた。それは、「翌日合流した時に人面犬の位置を把握できるように見張りを続けておくこと」だった。
人間ならば労働基準法に一発で引っかかる行為だが、雪童子たちは眠る必要がないらしく、むしろ勇輝たちに言われなくても捜索態勢を続ける予定だったらしい。
改めて、ここ数日、ずっと人面犬を追っていたという事実に勇輝たちは驚かされる。
「そういえば、僧正さんや水龍様が見に来てたんだったら、雪童子たちに気付いても良いんじゃないか?」
「どうだろうね。木霊や雪童子って結局は自然界に存在する精霊と言っても、王国ほどマイナーな存在じゃないっぽいし。人に見える見えないはあっても、そこら中にいるんだったら、違和感はないんじゃないか?」
そんな会話をしていると、雪童子の一体が大きく飛び跳ねてフェイの頭に乗っかった。
「龍!? 見たよ! すっごい大きかった。でも、凄い速さで飛んでたから怖くて、みんな隠れちゃったよ」
「あー、力が強すぎて、見つけなければいけない側に逃げられちゃった感じか。でも、同じ水に関わりのある存在だから、そこまで驚かなくても……」
「それだけじゃないよ。おっきな翼の生えた人、同じ位の早さで飛び回ってた」
「うーん。それ、絶対に僧正さんだ……」
烏天狗である僧正は人ならざる者の声を聞く神通力も有しているのだが、本人曰く、「苦手な部類に入る」と言っていた。本気で隠れてしまった。姿の見える人間や動物ならともかく、微弱な力しか持たない精霊相手では、どうやら神通力をもってしても聞き取れなかったらしい。
「――――おい、雪童子と仲良しこよしをするために山に来たわけじゃないんだぞ。人面犬改め彭侯とやらの位置が掴めているのかが肝心だ」
「それがねー、みつからないんだー。木に飛び込んで見えなくなっちゃうから、また探し直しー」
雪童子たちは彭侯が木に飛び込んで消えてしまったと判断し、山中を探し回っていると言う。それを聞いた國明は小さくため息をついた。
互いの情報の共有不足以前の問題。飛び移るという雪童子たちの言葉を移動方法と推測したことや、雪童子たちが目の前で起きた現象をどう捉えているのかを考えていなかった。
「人面犬が木に乗り移る魔物である彭侯なら――――」
「最後に消えた木の中にまだいるはず――――!」
光子と桜も、今ある知識であれば彭侯の居場所は容易に想像がついていた。木の生命力を吸い取るという性質上、消えた彭侯が更に移動していることは考えづらい。それ故に、対抗するための作戦もすぐに思いつく。
「雪童子共、さっさと最後に見た木の近くに案内しろ。その木を包囲して、逃げられないようにしてやる」
國明が勇輝たちから話を聞いて、立案した作戦は至って簡単だった。結界と人間の二重包囲網。逃げ場を無くしてしまえば、後はただの追いかけっこ同然だ。
問題があるとすれば、準備に時間がかかること。もし、整っていない状況で逃げ出されれば、最初からやり直しとなる。巫女見習いたちも詠唱なしで結界を張ることはできるが、光子には遠く及ばない。故に、一日に二度、三度と気軽に実行するわけにはいかないのだ。
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