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異世界魔瞳探索記「あなたの世界は何色ですか?」~極彩色の光が見える魔眼を手に入れて、薬草採取から魔物討伐まで縦横無尽の大活躍~  作者: 一文字 心
第4巻 消えた焔は地の底に

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救済の手は剣を掴むⅥ

「「マリー!?」」


 サクラとアイリスの悲鳴が響く。

 しかし、その間も二人の後ろには何匹もの水の大蛇が迫っていた。


「くそ、初弾の氷の解けた水か。そこまで範囲に入るのかよ……」


 咳込みながらマリーは、自分に死角から放たれた魔法を分析する。マリーの油断は、自分の想定以上にエリーが魔力の操作に長けていたこと、そして詠唱の意味を二重に解釈して発動していたことだった。


「『濁流の監獄』、続けて読めば捕縛術式として考えるのが普通ですけど、濁流とは本来、()()()()()()()()()()()()()()()を意味するものです。そんなものに人がさらされれば、吹き飛ぶ程度の威力が出るのは当たり前ですね」


 ――――まぁ、ここまでできるようになるのにずいぶんと時間はかかりましたが。


 誰にも聞こえない声で、エリーはつぶやくとマリーを支えるアイリスへと杖を向ける。杖を持たぬ手は指揮でもするかのように、他の場所にある水へと向けられて操作していた。


「弱い者、足手まといから狙うのが定石。悪く思わないで」


 三本の大蛇が空中からアイリスへと襲い掛かる。フェイは吹き飛ばされた反動で動けず、ユーキはオーウェンと鍔迫り合いをしていて迂闊に動けない。サクラも何とか杖を振るうが、自分を追いかけてくる二本の水流を防ぐのが限界だ。

 マリーを捨てて逃げる考えなどアイリスにはなく、マリーに肩を貸したまま握った杖を向かってくる水へと向ける。


「これで、二人目!」


 エリーが振り下ろした瞬間、アイリスとマリーが濁流へと圧し潰される。そのまま渦を巻く様に、白く泡立った水の球体が出来上がった。

 先程まで顔見知りだからと力を制限していたユーキの中で、撃鉄の音と共に何かが切れる音がした。


「お前ら……本気なんだな?」

「僕はいつだって本気だ。勘違いしていたのは君たちの――――」


 言い切ることなくオーウェンの体は十メートル以上吹き飛び、後方の壁に叩きつけられる。オーウェンには一瞬何が起きたか理解できなかったようで、顔から感情が完全に抜け落ちていた。幸い、鎧を着ていたおかげか吹き飛ばされた見た目以上にダメージは少ない。鎧に叩きつけられた胴体と壁にぶつけた後頭部の痛みはあるだろうが、意識を失う程ではなかった。

 動揺してオーウェンが見た先には、ユーキが鍔迫り合いのまま右手の指だけを伸ばしている姿だった。そのことに気付き、オーウェンはぞっとしたことだろう。

 彼の着ている鎧はオーダーメイドの対魔法用の加工がしてある。それでもミスリル製の鎧に比べればはるかに防御力は劣っている。それに対し、ユーキのガンドは城壁の壁を抉るほどだ。

 もしも、ユーキにその気があったのならば、胴体が千切れていたかもしれない。

 オーウェンの体が初めて震えた。近づいても危ない、離れているならば尚危ない。自らの間合いを外されて、対応策がすぐに浮かばないようで、顔が僅かに蒼褪めていた。


「おい、オーウェン。一応、これが最後の警告だ」


 ミシリッ、と空間に亀裂が入ったような音が響く。その異様なプレッシャーにフェイも立ち上がることを忘れて思わず見守ってしまう。エリーもサクラに防がれた水の操作を忘れて、ユーキへの対応をどうしようかと戸惑っていた。


「本当に、本気で、俺と戦うんだな」


 オーウェンの瞳がユーキの指先へと吸い寄せられる。何かがあるようには見えない。見えないはずなのに、そこに何かがあると確信してしまう。それほどまでにユーキの気迫は、オーウェンを精神的に追い詰めていた。

 それでもオーウェンは歯を食いしばって、一歩前へと踏み出す。


「あぁ、そうだ。僕にも譲れないものがある。そこをどけ!」


 オーウェンは剣を構えて、さらに一歩踏みこんだ。ユーキもまた同様に迎え撃つため刀を構えて加速する。そんな視界の端に歪んだ光が通り過ぎるのを見た。


「――――ッ!?」


 マリーたちを包んでいた水球が、そのまま弾丸のようにエリーへと放たれて激突する。水に飲み込まれたエリーは衝撃に肺の空気を全て吐き出すが、その声すらも水が掻き消した。洞窟の壁へと叩きつけられ、打ち所が悪かったのか、水が引いてもエリーはそのまま目を閉じて動かない。

 

「その水の操り方。()()()()()


 水球に包まれていたはずのアイリスが杖を構えたまま立っていた。その髪からは水滴が滴っていたが、服などが濡れた様子はあまりない。


「あなたが言っていた。他人の魔力が残っていると水は操りにくいって。逆に言えば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、魔法の支配権を奪うことができる」

「り、理論上は可能だが、そんな無茶な」


 この場において、その技を扱えるオーウェンだけが、アイリスのやっていることの凄さを理解できる。オーウェンができるのは他人の魔力が抜けた後の水に対してだが、アイリスは相手の魔法を詠唱なしに反射しているに等しい行為だ。魔力操作の中でもトップクラス。究極技法(アルテマアーツ)に数えられる技法の一つである。


「あなたは、私の友人を傷つけた。その報いを受けるべき」


 再び地面の水が動くと鎌首をもたげる蛇のように水柱が立ち並ぶ。その矛先は杖が指し示すエリーへと向けられていた。


「アイリス! エリーさんはもう倒れて戦えないんだよ!」


 サクラがアイリスへと駆けながら叫ぶが、アイリスの瞳にはエリーしか映っていなかった。その表情は、ドラゴンと相対した時の顔に似ている。

 魔眼を開いていたユーキは恐ろしいほどに魔力があふれ出るアイリスの輝きに驚愕する。そして、何より、今までに見えなかった輝きが彼女に現れていることに気付いた。


「青い……瞳!?」


 アイリスの瞳が青白く、そして、力強く輝いていたのだ。

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