子供は風の子Ⅶ
流石の國明も雪だるま如きに心刀の能力を使うほど、冷静さは失っていない。
だが、近くに落ちていた石を拾い上げると、逃げていく雪だるまに二つ三つと投げつけて怒りを露にはしていた。
「昨日の、仕返し?」
「もしかして、雪に関係する妖とかかな? ほら、國明さんの能力でここら一帯の雪を融かしてたから」
そういえば、と勇輝は頷く。
雪を融かしているときに悲鳴のような声が聞こえていた気がした。苦痛に満ちたというような雰囲気ではないが、緊迫感は感じられた。
もしかすると、雪が解けることに驚いた雪だるまに憑依している何者かたちが驚いた声なのかもしれない。
「……埒が明かないし、もう一体くらい作って聞いてみるか」
動き回る雪だるまを睨み続ける國明を放っておいて、勇輝は足元の雪でもう一体作り始める。
周囲の家臣団が困惑した表情で、それを見守る中、巫女見習いの子だけは目を輝かせて見つめていた。それこそ、また雪だるまが動くのかを確かめたい一心と言うのが伝わってくる程の熱心さが感じられる。
勇輝は雪だるまを雪の上に置くと、両手を胴の部分に添えたまま待つ。すると、一体目よりも早く体が震え始め、頭部が勇輝の方を向いた。
「やったやった。僕も入れた!」
「嬉しそうなところ悪いんだけど、聞きたいことがあるんだ。答えてくれたら、すぐに雪の上に戻すから教えてくれないかな?」
「えー、いいよー」
明らかに否定のノリだったのに、すぐに肯定の返事をする雪だるま二号。勇輝が思うに、中に入っている存在は、本当に子供に近い精神性をもっているのではないかと推測できた。
声もそうだが、発する言葉選びもどことなく子供っぽい。そして、実際にすぐにフェイや國明へと悪戯をする姿は、なかなか大人には見られない行動だ。
「いや、マリーとかなら、やりかねないな」
フェイの護衛対象であるローレンス伯爵の娘、マリー。ファンメル王国の使節団と共に来ている魔法学園の学生組の一人だが、悪戯好きな彼女としては間違いなく、雪玉をぶつけたり、雪をかけたりしてくると言い切ることができる。むしろ、魔法を使ってきそうな辺り性質が悪い。
「まりー?」
「いや、こっちの話だ。俺たちは、この辺りで変な雰囲気や気配がするって言われて調べに来たんだけど、何か知らないかな? それとも、それは君たちのことかな?」
勇輝が問うと雪だるまは首を傾げる動きをする。
「うーん。寒くなると僕たちは色んな所に遊びに行くんだ。だから、ここに来たのも初めてかもしれない。それをおかしいって言われたら、そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない」
「じゃあ、君たちから見て、おかしいなって思うことが起きたり、そんな存在を見たりしなかったかな?」
重ねて勇輝が問うと、雪だるまは唸り声をあげて黙ってしまう。
やはり、そう簡単に見つかるはずがないか、と諦めかけていると、雪だるまが小さくあっと叫んだ。
「いたよ。いたいた。人の顔した犬が木から木に飛び移ってたの」
「人面犬……?」
「そうそう。気持ち悪いから、近付かないようにって逃げてたんだ。多分、近くにいるんじゃないかな?」
勇輝が顔を上げると、いつの間にかフェイや國明も雪だるまの言葉に耳を傾けていた。特に國明の表情はこれでもかという程、歪んでいた。
「……大抵、人と動物の混ざり物は厄介な事件をもたらすことが多い。予言の獣の件や食べれば不老不死になる人魚もな。利益もあるだろうが、局所的すぎて損することの方が多いことこの上ない。その人面犬も似たような厄介者だろう。で、お前は一体何者だ?」
國明がジロリと見下ろすと、雪だるまは勇輝の手を跳び下りて、足の背後へと隠れてしまう。
勇輝が國明を宥めながら、何度か雪だるまに声をかけるとやっとのことで、顔を出して蚊の鳴くような声で名乗った。
「僕たちは雪の精霊。僕たちを見つけた人は、『雪童子』って、呼ぶよ」
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