振り出しⅦ
どうしたものか、と不思議に思っていると老人が振り返った。
「――――このまま、探していても見つからないかもしれん。お主ら若いのならば何か良い手が浮かぶだろうか?」
「えっと、実は……その山の方で明日から大規模な探索をするところでして……」
その探索部隊に自分たちが所属していることを伝えると、老人が白い眉をピクリと上げて反応する。どうやら、勇輝の言葉で言わんとしていることを察したらしい。
ギルド程多くの人の目に触れず、ついでとはいえ数十人の規模で探し物をしてもらえるならば、これほど効率的なものはない。少なくとも、たった一人で探し続けるよりは、遥かに見つかりやすいだろう。
「――――ほう、巫女長の孫、とな?」
流石に水姫や水龍、南条家のことを話すわけにはいかなかったので、勇輝はギルドカードで自らの素性を明かした。あまり、自分以外の人物の権威を頼りにするのは、いかがなものかという良心の呵責もあったが、優先するべきは一度、老人を止めることである。
実際、老人の黒い瞳に輝きが灯り、顔だけでなく体も勇輝たちの方へと向き直った。苦し紛れに放った言葉に自身の予想を超える返答があった、という様子に見える。
勇輝はその表情を見て、この場は押し切るべきであると直感が叫んでいた。
「とりあえず、探索は明日からになります。その際に探しますので、今日はこの辺で一度休憩を挟むのはいかがですか?」
「う、うむ。別にそこまで疲れているわけでは……」
戸惑いの表情を浮かべる老人の背中を、勇輝は片手で軽く触れる。そこにフェイや桜もたたみかけた。
「そうですよ。休憩することで何か落としたことを思い出すかもしれません。探すことも大切ですが、どのように落としたか、どこで落としたか、という情報があるだけで話はかなり変わります」
「急いては事を仕損じる、とも言います。お爺さん、まずは探すのではなく、思い出す方に力を使ってみませんか?」
二人の言葉に老人は、迷いながらも小さく頷く。口の中で、それもそうか、と納得するような――――或いは自分に言い聞かせるような言葉を呟いた後、勇輝たちの顔をじっくりと見つめ返す。
「では、お言葉に甘えさせてもらおう。儂の名は久能と言う。ただの山歩きが趣味の翁だ。よろしく頼むよ」
勇輝は、一先ず自身が宿泊している宿に、まだ空きがあったことを思い出し、そこへ案内をすることにした。何か國明に言われそうな予感もするが、目の前の命を救うことになるのだから問題はないはずだ。
勇輝以外も自己紹介をしながら歩いていくと、久能は気になっていたのか、チビ桜をまじまじと見つめる。
「ところで、そこにいるのは何かの精の類か?」
「あぁ、私、父が陰陽師なんです。だから、式神をこうやって扱う練習とかをしているんです」
「はー、大したもんじゃ。若いのに式神を遠くから操るなんての」
久能は顎を撫でて、大きく頷く。
彼がどこまで魔法を理解しているかはわからないが、勇輝は傍から聞いていて、桜が褒められているのが嬉しく感じられた。
数ヶ月前までは自分の分身を作って、操るだけでも大変だったのに、今では自分自身のように動かすことができる。特に雛森村に着いてからの上達は凄まじく、本当に努力に努力を重ねたことがわかる出来であることは間違いない。
「最近は、どこも物騒で出歩くのも危険だと騒がれておるからな。ほれ、この前の土蜘蛛の騒ぎを知っとるか?」
「えぇ、まぁ……」
当事者ですとは言えず、曖昧な返事をする勇輝。久能はどこからか聞いたのであろう土蜘蛛退治の顛末を声高に話し、昔はこんな国ではなかったと嘆く。
そうして話を聞いている内に、勇輝たちの宿泊先に到着すると同時に、偶然、中にいた國明と目が合った。
「――――」
國明の目が勇輝と久能の間を何往復かした後、わずかに細められる。
――――面倒ごとを持ってきやがったな、この馬鹿が。
そう告げているのが勇輝には理解できた。
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