救済の手は剣を掴むⅤ
オーウェンが先程までいた場所を勢いよく氷の弾丸が通り抜ける。
フェイが慌てて身をよじると左肩を掠めていった。動きが早いフェイでもギリギリな攻撃を、何も見ずに避けて見せたオーウェンの反応速度に目を限界まで見開く。
「(いや、反応したんじゃない。エリーが避けるオーウェンに合わせたんだ)」
やや後ろから迫っていたユーキは、魔眼でオーウェンの動きと氷の弾丸が放たれる軌道があらかじめ見えていた。会長と副会長ということもあってか、そのコンビネーションは抜群だ。
エリーへと放たれるはずだった魔法はオーウェンが跳び退いた先で撃ち落とす。そして、さらにオーウェンが移動した瞬間に、その陰からエリーの魔法が放たれる。また跳んだ先へ攻撃を仕掛け前衛を足止めする。
知り合いを相手にするという状況で精神的な劣勢ということを差し引いても、わずか二人相手に五人という数的有利を封殺される異様な光景が続く。
状況を打開するためにもユーキはガンドを使いたいが、その選択肢は除外していた。その理由は威力の調整に失敗したら危険ということと、オーウェンの近くにある薬草が吹き飛びかねないからだった。
「フェイ。薬草の群生地から離れて戦うぞ。俺たち以外の人にまで迷惑をかけるわけには――――」
「そんなこと言ってる場合か? 相手はあのライナーガンマだぞ。あの魔法剣を本気で振るわれたら――――」
「それは、こいつのことかな?」
たった数秒の隙。その間にオーウェンは剣に水を纏わせて二人同時に薙ぎ払った。ユーキとフェイは武器を翳して剣の直撃に備えたが、オーウェンの振るった剣は間合いからは明らかに離れている。僅かに遅れて鋭い水の刃が勢いよく二人に迫ってきた。
たかが水と侮ってはいけない。粉末状の金属を混ぜて高圧噴射される水ならば、その圧力次第では人体を切断することなど容易い。幸運だったのは、単純な水の噴射であったことと、その圧力がそこまで高出力でなかったことだろう。
フェイは運悪く腕に当たり、その痛みに剣を取り落とした。
それを視界の端で捉えながらも、ユーキは剣の間合いから外れていたことを悟った瞬間に、一気に詰め寄る。
「なに!?」
今度はオーウェンが驚く番だった。ユーキに当たる手前で自分の放った魔法が霧散したからだ。その光景に怯んだオーウェンは、遅れて舌打ちした。
「くそっ、僕としたことが。ガンドのことばかり気にしていた。君には、あの結界があるんだったな!」
そのまま迫りくるユーキを迎撃するために、振りぬいた剣自体を返して、剣による直接攻撃を仕掛けて来る。
しかし、それでも僅かに遅い。そして、それは次なる負の連鎖を生み出す。
「――――会長っ!?」
エリーが急いで詠唱を行うが間に合わない。仮に間に合っても、ユーキへは魔力が続く限り自動で防がれる。その二つの壁がエリーの判断を鈍らせた。
「「「『――――汝等、何者も寄せ付けぬ四条の奔流なり』」」」
サクラたちの放つ計十二本の水流がエリーへと押し寄せる。絶妙なコンビネーションで防がれていたエリーへの攻撃は、オーウェンが釘付けされたことによりすべて射線が通っていた。
慌てて杖の方向を切り替えて、発動寸前の魔法を解放して迎撃する。自らに一番近いものから氷の弾丸を当てていくと、花が開く様に空中で水が広がって凍っていった。その花弁に他の水流が当たり、エリーからわずかに逸れた場所へと着弾していく。
それでも、その隙間を縫った数発がエリーへと殺到した。自身の魔力を高めて外界へ一時的に放出することで、対魔法の一時的な障壁とすることができるが、それでもエリーの体は着弾時に解放された水圧で数メートル吹き飛ばされる。一歩間違えれば骨の一本や二本は折れていたかもしれない。
ごろごろと転がりながら、エリーはそれでもその勢いを利用して立ち上がり、すぐに詠唱を始める。転がった拍子に切ったのか、杖を握る指からは血が滴り落ちていた。
「『地に降り立つ雫を以て、その意を示せ。すべてを飲み込む、濁流の監獄よ』」
その言葉に空中から落ちようとしていた氷の花弁や地面に広がった水たまりが反応する。本来、魔力で水を生み出して攻撃するのだが、既に存在している水に魔力を通すことで魔力の消費を押さえ、威力やコントロールに力を割く。その技術をエリーはオーウェンを通して学んでいた。
蛇のように地面を這い、鎌首をもたげて空中へ躍り出る様は多頭の蛇・ヒュドラを彷彿とさせる。サクラやマリー、アイリスはその光景に思わず足が後退した。
「こんなところで、水以外使ったらヤバいことになるからな」
「そうだね。薬草が育つ場所がなくなっちゃうからね」
「何より、姉さんを怒らせるから、絶対にできない。やるならアレを食らった方がマシだぜ」
そう言いながら、マリーは身体強化でアイリスを引っ掴んで横へと避ける。その反対側へとサクラも同様に跳び退った。
「はっ。水の汎用中級呪文の弱点は、そのコントロールの難しさにあるのは知ってんだ。こうして別れちまえば、集中力が分散して――――」
「――――いえ、これでチェックメイトです」
グボッ、とマリーは自分の脇腹へと何かがめり込むような音を聞く。遅れてやってくる痛みに視線を向けると、大きな水の玉が炸裂した後だった。
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