振り出しⅤ
外に出てみると、再び雪がちらついていた。どんよりとした雲から、ゆっくりと粉雪が風にたなびいて花びらのように舞っている。
店で借りた唐笠を差し、道行く人の流れを見て、楽な方へと足を向ける。
「これ、紙でできてるけど、濡れて大丈夫なのか?」
「油を引いてあるから、水を弾くんだ。ちゃんと手入れしないと、ふやけて破けるだろうけどさ」
「へー、さっきいっぱい色の種類があったけど、なかなかおしゃれだな。むしろ、これをお土産にしたいくらいだ」
「まぁまぁ、そう急くなって。色々見てからで遅くないだろ?」
勇輝は目を輝かせるフェイに苦笑いする。
剣以外を握っている姿をほとんど見たことがないフェイが、傘一つでここまで表情を変えるのかと意外に思う。
「あれじゃないかな? お箸とか湯呑とかも色々な所で買えるけど、王国まで持って帰ることを考えたら、そういう物の方がいいんじゃないかな?」
「お箸か……あれは、使うのが大変だけど、コップなら良いかもね」
なるほど、と頷きながら歩く。そんな彼の視線は店の先々に灯された提灯へ釘付けであった。海京にもあったのだろうが、ひたすら一直線に続く道に店が連なる場所で見ると違った光景に見える。
ぬかるんだ地面を踏みしめ、人を避けていく勇輝だったが、しっかりと前を向けていないフェイが心配で、何度も振り返った。
「だ、大丈夫だぞ。別に迷子になったりしないからな」
「何も聞いてないのに言ってるのは、語るに落ちるってやつだ。ほら、別に時間はあるから足を止めて見て行けって」
店先に並べられた木彫りの商品とかを指し示す。
ファンメル王国では銅像や石像などが多いこともあって、フェイはそれにも目を輝かせた。
「この国は刀のような金属加工が素晴らしいと思っていたけど、木を削る技術もなかなかだね」
「むしろ、木造建築とかが当たり前だから、木の加工の方が得意な人が多いかもな。いや、木と言うか植物全般か。草鞋とかも植物の茎だしな」
使えるところは余すところなく使い切る。それが太古から続く日本の古き良き文化だった気がした。それがこの国にも息づいていることを感じると、どうにも時代劇のセットの中にいるような気がして、複雑な気分になる。
「確かに稲は食べるだけじゃなく、履物や外套、傘代わりの物を作る材料にもなるものね。そう考えると植物関係の加工もファンメルの人から見たら珍しいのかもね」
桜もポケットから顔を出して、見ることができる商品についてフェイに説明していく。一通り説明が終わると隣の店に移動し、何か気になる物があったら店内に入って見る。そんなことを何度か繰り返して道を歩いていると、蓑を纏った出で立ちの老人が正面から歩いて来るのが見えた。
その姿はカラフルな傘が行き交う道には些か異色ではあったが、特段、おかしい服装ではない為、誰も見咎める者はいない。ただ一点、気になることがあるとすれば、その人の視線が明らかに下を向いて左右に動いていることだった。
「何か、落とし物ですか?」
思わず勇輝が声をかけると、男性は顔を上げて、しゃがれた声で話す。
「あぁ、印籠を落してしまってね。大切な物をしまっているので探しているんじゃ」
「お薬ですか?」
「いや、そうではないのだが――――それに近い物ではある。儂が必要としているのではないのだが、必ず使う時が来ると大切にしていた。ところが、うっかり無くしてしまったんじゃよ」
肩を落とす白髪の老人の言葉に、勇輝とフェイは顔を見合わせた。
できるものならば、助けてあげたいところではある。だが、今は別の件で動かなければならない身だ。それこそ、先程、フェイの集団に所属する身には自由が少ない、という点が足かせになっている。
勇輝たちは冒険者ギルドに依頼を出すことを提案してみるが、老人は首を横に振った。
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