振り出しⅢ
一瞬、場を重苦しい沈黙が支配した。勇輝は國明が何を言おうとしたかわからなかったが、その反応からするに、あまり良い内容ではなかったように思われる。
「(――――って言うか、この人何なんだ? 屋内でも常にこの人だけ鎧兜フル装備の常在戦場モードだし、何も話さないし、怖いんだけど!?)」
出発してから、この男の装備を外している姿を見たことがない。そればかりか、目以外の部分を覆う面頬の防具もある為、顔どころか表情一つ読み取ることができないのも、恐怖をより一層書き立てる。食べ物も水分も補給している様子がない為、勇輝からしてみれば彼の方が妖怪の類だと言われても不思議はなかった。
「――――失礼、失言であったな。皆の者、許されよ」
國明の真面目な顔で頭を軽く下げた。周囲から何か言葉が飛ぶわけでもなく、ただ束の間の静寂が訪れた後、國明はそれを良しとして面を上げたようだった。
「さて、先程の件の続きだが、そこの異国の騎士の考えである『外的要因による植物。或いは木霊への悪影響』という線で明日は調査を行いたいと思う。今日とは違い、ここまでの移動時間がないので、長丁場の活動になることを踏まえ、休息は十分とるように。今晩の会議は、この程度でよいだろう。もし、何かここで言い辛いことがあれば、夕食後に部屋へ来るように」
そう告げると南条家家臣団の代表十二名が揃って頭を下げた。勇輝たちも慌ててそれに倣うと、國明が立ち上がり、部屋を後にする。
彼の後ろに間を空けて、寡黙な甲冑武者。そして、一から十二までの番号を与えられた甲冑の無い代表者たちが部屋を後にする。最後の一人が出て行って、襖を閉めたところで、勇輝とフェイは畳へと身体を投げ出した。
「つか、れた……精神的に……」
南条家側が國明を含めて十四人。それに対して、勇輝側という訳ではないが、それ以外がフェイと光子、そして桜で四人。三倍以上の人数で囲まれるという圧迫感は、言葉を発せられなくても相当な者だった。
「あの人たち、みんな國明と同じか、それ以上の使い手なんだろうな。後、甲冑の人が本当にヤバそう」
「魔眼で何か見えたのか?」
「逆だよ逆。あの人が一番見えにくかった」
体に纏った光の量で力量を見極めることができる、というのは勇輝の持論であったが、それには一つ例外があった。強い人であればあるほど、纏った光が肌に張り付くように薄くなっていく。動く時に体より先に光が動くが、その誤差やラグが極端に少ない。
かつてフェイや桜と一緒に戦闘訓練に付き合ってもらった、王都の門番をしていた老兵を例に挙げると、フェイは納得して頷いた。
「あぁ、あの人か。動きの前兆が読めないし、読めたとしても反応ができない。体の動かし方を理解し、相手にどう見えるかも理解していないとできない。正に鍛錬の賜物ってやつだね」
「この距離で何か悪いことをしようとしたら、やる前に首が跳んでる姿しか想像できないかも」
勇輝のポケットから顔を出して、桜が大きく息を吐き出す。彼女だけは、式神を通しての感覚だったはずだが、それでも本体に伝わるほどの圧迫感だったということだろう。
光子の横顔を見ると、澄ました顔で座っているが、気温がやや低い部屋であっても、わずかに汗の玉が浮き出ていた。鬼巫女と言われた彼女であっても、かなりの緊張をしていたことが伺える。
「正直、もう少し簡単に原因がわかってほしかったものですけど、そう簡単には行きませんね。水龍様と烏天狗様のお二人でもわからなかったと聞きましたから、覚悟はしていましたけど」
「まぁ、後は地道に原因を探すしかないよね。もしかすると、水龍様や僧正さんとは違う視点じゃないと見つけられないってことかもしれないし」
桜が光子を励ますが、彼女はどんな視点で探せばいいのだ、と漏らし、さらに困った表情になってしまった。
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