振り出しⅡ
そして、ここでもう一つ問題が発生する。
仮に木霊が今回の騒動の原因だとすると、倒すという手段を簡単にとるわけにはいかない。何せ、木々に宿った精霊・妖精の類となれば、倒したところでキリがない。國明の言うように、そんな存在がゴロゴロといるのだから、それこそ全ての木を切り倒すという手段でしか解決できなくなってしまう。
「いや、そもそも、今回の問題は、その木霊って奴らの仕業かな?」
フェイがぼそりと呟いた。
水姫が感知したのは、あくまで怪しい気配程度のもの。具体的に何が起こっているかまでの言及もない。そして、木霊はそれこそ水姫である時子が産まれる前からも存在していた。それが急に危険な存在に変わることがあり得るだろうか。
フェイはあくまで木霊自身ではなく、その周囲の環境や別の原因があるのではないか、と主張する。
「一理あるな。木霊程度に揺らがされる国とは思いたくないというのもあるが、それよりも植物に悪影響を与える魔物がいると考えた方が、まだ理解できる」
冬場に木霊が活発に活動するというのも疑問だ、と付け加えた上で國明は、植物に関連する魔物について、部下たちに何か知っている者は無いかを問いただす。
暴れ柳。先日、雛森村まで移動してきた変異種だったが、通常の種も魔物として認知されており、東雲の領地で育てられているもの以外にも野生で出現することがある。
保留。可能性は薄いが、変異種のように何かしらの能力に目覚めて、周囲の植物の力を吸い取っている可能性がある。
人面樹。人の頭部の花を咲かせる木。話しかけると笑い声を返すだけで、その後落下してしまうというもの。あくまで伝承上のもので、元は蓮華帝国から伝わった話らしく、日ノ本国では確認されていない。暴れ柳と合わせて、トレントの亜種と考えられる。
否定。花を咲かせる季節には程遠く、害を及ぼすとは考えられない。
逆柱。生えていた向きとは逆に家屋の柱にすることで家鳴りや声を発し、住む者に不幸をもたらす。
論外。今回の場所は家屋ではなく、外。しかも柱は加工した後の話で、生えている木が逆さになるのはあり得ない。
「思えば、植物に関する魔物や妖怪の類は少ないな。あったとしても後は柳の下に出る幽霊くらいか?」
「植物はどちらかというと神様寄りになりがちですね。御神木的な扱いをされることも多いですから。あるとするならば、雑に扱われ続けて、人に恨みをもつくらいでしょうか」
光子が補足すると、桜も頷く。
人間より長寿になりがちな樹木は、崇めるものとして認識されることが多い。それだけでなく、山自体や海自体などの自然物というカテゴリーでも同じだろう。時には、自然災害として祟ることもあるので、それらをまとめて神として祀ることもあるので、妖怪や魔物などになった例は他国に比べて非常に少ないようだ。
「――――考えたくはないが、まだ封印塚の魔物の瘴気が残っているとか? この前、お前が倒した鬼。あれは確か不完全な状態だったと聞いている。では、そいつ本来の瘴気が残っているとかあり得るんじゃないか?」
「……あー、そこら辺は言いにくいと言うか何と言うか」
勇輝が倒した茨木童子だが、その瘴気の正体は鬼に恐怖する人の思念という部分が大きい。その為、現在進行形で、この宿場町を北に抜けた洞津において、鬼としてではなく神として祀ることで瘴気を抑えるという試みが行われている。
國明がその事情を知っているかわからず、勇輝ははっきりしない言い方で返答した。
「ふっ、封印塚の魔物と聞いていたが、お前に敗れるとは存外大したことがないようだな。まったく、これではかつて挑んだ俺たちの先祖が――――」
「――――國明殿」
今までずっと國明の横で黙っていた部下が短く声を発した。どこか重い雰囲気を漂わせる声に、國明はそれ以上言葉を発しない。
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