銀世界Ⅶ
勇輝もまた光子の呆れた視線を受けながら、どうしたものかと考えていると背後からフェイが声をかけて来た。
「おい、今までにお前の魔眼で見えなかった奴はいるか?」
「そんなのいるわけ――――いや、いるかもしれない」
勇輝はさっと今まで出会った魔物を思い出す中で、不意に別の存在が頭の中を過ぎった。声だけは聞こえるが、なかなか見つけられなかった存在が一種族だけいたことを思い出した。
正確には、見ようとしなかったり、すぐに見るのを諦めてしまったりというのが主な理由だが、よくよく考えれば、もう少し見ていてもおかしくないはずであった。
「妖精だ。あの子たちは、妖精庭園でも、あまり姿を見ることが無かった。実際に見ることができたのは、あの子たちが姿を見せようとしてくれたからで、本来だったら何百もの妖精を見ることができていたはずだ」
「妖精は自然の魔力や植物の意志が人の形をもった存在だからね。もしかすると、君の魔眼でも『人の形』として認識しづらい種族なのかもしれない」
「逆に、それを理解した上で見れば――――」
決して見れないわけではない。そう考えた勇輝であったが、時既に遅し。子供の声は遠退き、揺らめきながら動く透明な何者かも捉えられなくなってしまっていた。
「まぁ、探索は始まったばかりだ。妖精やその類の存在ならば、また近寄ってくる可能性は十分にある。もしかすると、さっきの雪を落したのも妖精の仕業かもな」
「あぁ、そう言えば妖精って悪戯好きなんだっけ?」
勇輝は妖精庭園に迷い込んだ時のことを思い出す。自身はあまり被害を受けていないが、桜やフェイたちが勇輝を捜索している際には、かなり酷い目に遭ったと聞かされていた。それこそ、命の危険を感じるほどに。
「全ての妖精が、そうってわけじゃないけどね。人間だって、色んな国の人や性格の人がいるのと同じさ。そこはわかっておいた方が良い」
「あぁ、でも妖精だとしても、少しおかしくないか? だって、冬でこんなに木々には力がない感じがするのに、妖精は元気って」
勇輝の魔眼に、木々の光は明らかに暗く映っていた。今までの経験からすれば、光の強さはそのまま、その物体や生命体の強さに関係すると推測できる。それこそ、魔力の多さなどは魔法の使用時に増減したり、場所が移動したりするため、非常にわかりやすい。
「――――待て、木に力がないというのは、どういうことだい?」
フェイが、そこで眉をひそめた。
勇輝は特段、その反応を気にせずに、当たり前のように近くの木に指を差す。木から放たれる光が暗いのだ、と。
「確かに冬は葉が落ち、一見すると枯れたように映る。でも、冷静に考えてみてほしい。春になれば、また花を咲かせたり、青葉を生やす木々が、そこまで酷く衰弱するかい?」
「うーん。でも、熊と同じように冬眠する感覚なら、発するエネルギーとかは少ない方がいいだろう?」
魔眼の捉えた景色を巡り、互いに意見を交わす二人。そこに桜が割り込んでくる。
「辺り一帯が全部、そう見えるの? それとも一部だけ?」
「昨日、天守から見た時は全体的に暗く見えたけど、ここは正直に言うと、暗いなんてものじゃないかな」
山道を歩いてくる中で、魔眼を開くタイミングはかなりあったが、そのどこよりも暗く感じる。それこそ、燃え尽きかけた炭のような印象を受けるほどの頼りない光だ。
「もしかして、その妖精たちが木々の魔力を奪い取ってるなんてことはないよな?」
「でも、妖精庭園では妖精は他の植物に引っ越しできるって言ってたよ。それを考えると魔力も一緒に持って行くのは自然じゃないかな?」
点と点が繋がるように、推測が現実味を帯びていく。その決め手になったのは、巫女長のある一言だった。
「すぐには問題にならない、っていうのは、もしかして、冬の間は問題にならないけど、春が来た時に何か起こる可能性があるってことじゃ?」
その言葉に桜と光子が目を丸くした。
対して、その話を聞きながらも國明と隣に佇む武士は沈黙して、部下たちの動きを見守り続けていた。
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