銀世界Ⅴ
國明の言葉を反芻している横で、フェイは承知したと頷く。フェイからすれば、自分の得意分野で人を救えるならば、騎士冥利に尽きるといった様子で誇らし気であった。
「なるほど、遠距離で結界を発動させるのが得意な私も、ここで待機ということですね」
「巫女長と光雲殿から話は聞いている。何でもとことん鍛錬し尽くし、巫女見習いになってから間もなく頭角を現した鬼才の持ち主だとな」
「そこで『鬼』という言葉を使うってことは――――わかって言ってます?」
光子の視線が鋭くなる。それを涼し気に受け流して、國明は口の端を持ち上げた。
「あぁ、もちろん。その自分にも他人にも厳しすぎる態度から、鬼巫女と称されていることなど先刻承知。その点においては手放しで賞賛しているとも」
國明は顔色を変えることなく言ってのける。傍から聞けば、完全に喧嘩を売っているような形に見える。ただ、國明は心の底から褒めているらしく、光子も怒るに怒れないのか珍しく苛立ちを露にしていた。
「まぁまぁ、二人とも落ち着いて、それより周りを見て警戒しないと」
チビ桜が慌てて光子の前に飛び出て両手を上下に振る。何かを言いかけた光子も、流石に口を閉ざして國明とは逆の方を向いた。
「そこの女の言う通りだ。特にお前は厳しいだけあって、巫女見習いどもの挙動がおかしければ、すぐに気付けるだろう。俺は自分の部下を、田舎者は人以外の存在を注視して警戒すればいい」
「簡単に言ってくれるな」
「不満か? だったら俺と役目を交代させてやっても良い」
「こっちから、お断りだよ」
勇輝は片手で払うようにジェスチャーをすると國明とも光子とも違う方へと視線を向けた。三人の間に――――主に國明への――――不穏な空気が漂うが、唯一残った家臣団の男は、何も言わずに傍らに立っているだけだった。
「(き、気まずい……)」
司令塔となる國明の周りには、勇輝とチビ桜、フェイに光子、そして甲冑の男の五名が揃っていたが、探索をする十二班のどこよりも空気が悪いのが見て取れる。
それに一番居心地の悪さを感じていたのは、ファンメルから来たフェイかもしれない。幸いなことに黙っていても、真面目に警戒をしているように見えるので、勇輝が盗み見たフェイの表情は、そこまで変化はないようであった。
「すごいな。雪は解けるけど、その下の地面の枯れた草とかは燃えないのか」
「ほう、異国の人間にしては目の付け所が違うな。やはり、身近に高貴な者や実力者がいれば、目も肥えるということか」
國明は上機嫌な声音で心刀を揺らした。
地面に突き刺さっていたように見えたそれは、切っ先が僅かに雪の中へと埋没していただけに過ぎず、その刃を中心に僅かな炎を生み出していた。
國明曰く、地面から僅かに浮いた場所に限りなく薄い炎の膜を作り出すことで雪を融かしているのだとか。
山火事などを起こしてしまえば大惨事になるが、そんなことを引き起こすような柔な鍛錬はしていないと胸を張る。
「こちらの国で言う魔力制御に優れた魔剣使いと言ったところですか。そうなると操る属性は違いますが、オーウェンに似ていますね」
「あの姫君の後ろに控えていた男か。確かに、尋常ではない気配を感じた。剣の圧だけならば、俺の心刀も凌ぐかもしれんが、武器を活かせるかは使い手次第だ。いずれ試合いてみたいものだな」
にやり、と笑う國明を見て、フェイは苦笑いを浮かべる。
勇輝は國明のローレンス伯爵のような戦闘狂染みた考えに、フェイも似たようなものを感じ取っていると想像した。そして、同時に本人がいない場所で、國明が興味を持ってしまったことに、心なしか罪悪感を抱く。
『はっ、いいじゃないか。戦って築ける友情もあるってことだ。親善試合と称して、戦わせてみるのもいいんじゃないか?』
「(ややこしくなるから、お前は黙っててくれ。いや、俺にしか聞こえないから実質黙ってることになるんだけどさ!)」
勇輝が刀の柄にデコピンを当てると、心刀からの声が止む。ほっと一息つく勇輝であったが、どこからか、また子供の声が聞こえて来た。
【読者の皆様へのお願い】
・この作品が少しでも面白いと思った。
・続きが気になる!
・気に入った
以上のような感想をもっていただけたら、
後書きの下側にある〔☆☆☆☆☆〕を押して、評価をしていただけると作者が喜びます。
また、ブックマークの登録をしていただけると、次回からは既読部分に自動的に栞が挿入されて読み進めやすくなります。
今後とも、本作品をよろしくお願いいたします。




