水龍Ⅳ
自分の知らない内に二つ目の雷霆を授けられているとは、勇輝も思っていなかっただろう。尤も、その二つ目は心刀が半分預かる形で、徐々に勇輝へと渡していくということになっているのだが、それも勇輝本人には無断で行われた交渉であった。
複雑な気持ちで表情が歪む勇輝を水龍は横目で笑う。
「数奇な運命を辿る者は世界を探せばいくらでも探せるが、お主ほど巡り合わせが奇妙な者は、そういないだろう。良くも悪くもな。それをどう捉えるかはお主次第だ。精々、楽しむと良い」
「そんなこと言われて楽しめると?」
「あぁ、人間とはそういう生き物だからね。君もそのうちわかるさ」
やはり、神と人間では根本的に考えがズレている部分がある。そう思うことで勇輝は無理矢理、納得することにした。
「因みに、この魔眼のことをどうして知ってるんですか? ある人には、魔眼が何かを下手に知るとマズイことになる、って言われたんですけど」
「あぁ、それは単純に僕が長生きして、似たような魔眼を知っていただけさ。だから、肝心な部分は教えていない。その魔眼がどう偏るかは、君の経験と考え次第さ」
「……答えのない問題ほど辛いものはないんですけど、せめて手がかりくらいはもらえませんか?」
勇輝が食い下がると、水龍は困ったようで唸り声を上げる。尻尾の部分がパタリ、と何度か振られ、無言の時間が過ぎていく。
やがて、水龍は小さくため息をつくと仕方ないとばかりに声を絞り出した。
「名は体を表す、というからね。僕が知っている魔眼が何て呼ばれていたかくらいは教えてあげよう」
「本当ですか? ありがとうございます!」
土下座する勢いで勇輝が正座して向き直ると、水龍は苦笑しながらも説明を始めた。
四色の魔眼のそれぞれには頂点に立つと言われる魔眼が存在する。それぞれを白玉の魔眼、黒玉の魔眼、紅玉の魔眼、そして――――
「蒼玉の魔眼、ですか?」
「あぁ、そうだよ。因みに文献などを探しても、余程のことがない限り出てこないから、頑張って自分で答えを見つけ出すことだね」
「因みに第四位って言葉と関係があります?」
ファンメル王国で出会ったドラゴンの意味深な呟きを勇輝は覚えていた。忘れるはずがなかった。後出しジャンケンのようで気が引けたが、あえて勇輝は、このタイミングでその問いかけを放ってみる。
「――――どこで、それを?」
どうやら、その狙いは当たったようで、水龍の目の色が変わった。表情自体は変化がなく、声色も平静を保っているようだが、明らかに想定外の言葉であると言った反応だ。
その余りの威圧感に勇輝は、少し距離を取りながら、軽く両手を上げる。そこまで反応するとは思っておらず、申し訳なさが胸中を満たす。
「えっと、ファンメル王国で出会った老齢のドラゴンに言われまして」
「あぁ、彼か。なるほど、それならば、その言葉を知っていることに不思議はないけど……それで生きて帰って来られたのか。むしろ、その方が驚きだね。彼、元気にしてたかい?」
どうも旧知の仲であることが伺えて、地雷を踏んだわけではないことに安堵した勇輝は、表情を崩してドラゴンと出会った時のことも話してみた。
今はあまり食べずに魔力だけで過ごしていること。仲間のドラゴンも何かしらの争いをしていること。夢でかつての仲間と出会うことだけが楽しみであること。そんな話を伝えると、水龍は遠い目でどこか彼方を見る。
「……長生きをすることを否定するわけではないけれど、自分だけが長寿だと、ただひたすらに見送ることしかできないからね。その点は、僕も同情するよ。彼は嫌がるだろうけど」
最後に少しばかり苦笑いをして、水龍は勇輝の腿の辺りを尻尾で軽く叩いた。
「ところで、ここにいるのは時子が感じた方角に異変が無いかを見張る為だろう? さっきから目を離しているけど大丈夫かい?」
「あ、すいません。今すぐ、見張りに集中します!」
慌てて、勇輝は視線を山の方へ向ける。幸い、今のところ大きな変化は見られないが、何かを見逃していた可能性を考えると、冷や汗がどっと噴き出して来た。
【読者の皆様へのお願い】
・この作品が少しでも面白いと思った。
・続きが気になる!
・気に入った
以上のような感想をもっていただけたら、
後書きの下側にある〔☆☆☆☆☆〕を押して、評価をしていただけると作者が喜びます。
また、ブックマークの登録をしていただけると、次回からは既読部分に自動的に栞が挿入されて読み進めやすくなります。
今後とも、本作品をよろしくお願いいたします。




