幕間
サクラ・コトノハ、十五歳。彼女はファンメル王国の王都オアシスの魔法学園に通っている。
代々、魔法使い――正確には父が陰陽師で、母が巫女――の家系で、故郷の学校で陰陽術や結界術などの基礎魔法を習得していた。卒業もあと一年と少しとなった冬のある日、実家に帰った際に母からサクラはこう言われた。
「もっと外の世界で見聞を広めてみるのもいいかもしれないですね」
父も賛成し、あれよあれよという間に魔法学園への入学が決まってしまった。
元々、魔法を学ぶのは好きで、ファンメル王国の魔法にも興味があり、前々から母には相談していたこともあって話はスムーズに進んだ。その結果、サクラは喜んで国を出て、今ここにいる。尤も、それ以外にも自分の故郷にいたくない理由はあったのだが。
半年間で故郷の魔法とは違う手順や道具、理論に驚き、見たこともない魔法に目を輝かせてばかり。毎日が楽しく、退屈などとは程遠い日々だった。何より学校生活にもなじみ、友人もすぐにできたのは、サクラにとって想定外だ。
「でさー、サクラ。本当のところどうなのさー」
「正直、私も、興味あり」
今、サクラに話しかけてきているのも、その友人たちの中で特に親しい二人。
「いや、だってさ。サクラが男と二人で歩いてるのなんて、今まで見たことないしー。興味が湧くのも当然でしょ!」
元気がいい女子生徒は、マリー・ド・ローレンス。ファンメル王国の北東にあるローレンスに領地をもつ辺境伯の次女――なのだが、貴族とは思えない豪放磊落ぶりで、良くも悪くも周りから一目置かれている。
赤い髪が特徴的で、後ろから見ると男子生徒かと思うくらいの短い髪が特徴。背も高く、何より胸が大きい。おそらく、クラスの男子生徒の大半の視線は、ここに注がれているだろう。
サクラ的には、何となくその視線を察知しており、もう少し自重というか、あからさまなのはどうにかならないかと考えることが度々あった。
「うん。きっとサクラの彼氏」
逆に、物静かに話してくる女子生徒の名はアイリス。飛び級で入ってきた天才魔法使い。年齢は十二歳で、体も年相応より少し小さい。
サクラは時折、彼女を抱きしめたくなる衝動に駆られることがある。水色の透き通った髪に、同じように輝く瞳が印象的で、思わずサクラも初めて会った時は見入ってしまった。
「ちーがーいーまーす。ユーキさんは、ただの――友人?」
学園に毒草採取に来ているユーキに迷惑がかかるといけないので、サクラは二人の意見を否定しておく。ただ、友人というには少し違う気がするので、どこかむず痒い感じがして仕方なかった。同じ国の人で親近感が湧いた、というのは間違いないのだが、それだけではない気がする。
「ほらー、疑問形で答えるってことは男だろー!」
「サクラに春が来たー。桜だけにー……クスクス」
他人の恋愛話というのは女の子を騒がしくさせるスパイスなのだろう。サクラも巫女の修行をしていた時には、同じ所業仲間と人並みに話したことはあるが、自分が当事者になって話をされると、どんな反応をしていいかわからない。
どうしたものかと窓の外を見ると、お日様も高く上り、外で過ごすには少し辛いお天気模様。
ふと、そのまま視線を地面の方に落とせば、ユーキが一休みしていた。薬草採取を張り切ってやっていたのだろう。普段使っている革袋だけでなく、大きな革袋もパンパンに膨れ上がっているのが見える。
そんなことを考えていたサクラの隣に、マリーの横顔が飛び出してきた。
「おー? 噂をすればサクラの相方発見じゃーん? ちょっくら、突撃しますか。いくぜ、アイリス!」
「れっつ、ごー」
いつものようにアイリスを背中にぶら下げて、マリーが教室を出ていく。昼休みも始まったばかりで、次の授業までは余裕があるはずなのだが――
「ま、待って! ほんっと、ちょっと待って! 二人ともー!」
あわてて、サクラはマリーとアイリスを追いかけ始める。
急に走り出した三人に、教室中の視線が集まるが、いつものこととばかりに生徒たちは各々の昼休みへと戻って行く。
サクラは前方を走る二人の小さくなった背中を見ながら、ユーキに心の中で謝った。
――ユーキさん、ごめんなさい。今から嵐がそちらに直撃します!
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