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異世界魔瞳探索記「あなたの世界は何色ですか?」~極彩色の光が見える魔眼を手に入れて、薬草採取から魔物討伐まで縦横無尽の大活躍~  作者: 一文字 心
第4巻 消えた焔は地の底に

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鋭き目で射抜くものⅤ

 赤土が完全に剥がれ落ちると、その下に隠された赤銅色の鱗がヒカリゴケの光に反射し、金属かと思うような煌めきを見せる。その名の由来たる目でマリーたちの存在を睥睨すると、鋭い牙が並んだ口を大きく開けた。


「――――グアアアアアアアアアアアッ!」


 その大きな声は、先ほど洞窟の奥から聞こえてきたものよりも何百倍と大きく聞こえた。先程まで土に覆われていた様子を見ると長い年月をかけて動いていなかったようにも感じられる。

 もしかすると、風の音のように響いていたのは「いびき」だったのかもしれない。脳の許容量があふれ、ユーキの頭の中では呑気にそんな考えが浮かんでいた。

 ドラゴンという存在が放つ声は、耳ではなく体全体に響き、戦うという選択肢すらも与えないほどに精神を打ち砕く。ただ、そこにいるだけで万人の膝を折らせる。だからこそ、ドラゴンを打倒した者たちは英雄と称えられたのだろう。

 ひとしきり大声を出し切ったドラゴンの瞳には、膝を屈した四人の人間の姿が映っていた。


『我が眠りを妨げたのは貴様らか?』


 一体、どのような方法で声を発しているのかはわからないが、ドラゴンの口の奥から野太い声で問いかけられる。尾が激しくうねり、背後の地面へと叩きつけられた。どんな重装備をした者でも、今の尾の一振りが当たっていたら、確実に絶命しているだろう。


『もう一度、問う。我が眠りを妨げたのは貴様らか?』


 僅かに細められた目が苛立ちを表していた。息さえするのもままならず、命がいつ掻き消されるかもわからない状況に突然追いやられれば、どんなに簡単な問いであれ答えるのは困難だろう。怒鳴られた幼子のように、ただ震えるばかりである。まるで醜いムシケラでも見るかのような眼差しへと変わろうとしたところで、フェイが口を開いた。


「お、恐れながら申し上げます。閣下」

『いいだろう。答えよ』

「我が名はフェイ。この国の辺境伯に仕える騎士であります。まずは知らなかったとはいえ、閣下の寝所に入ったことは事実であります。誠に申し訳ありません。ただ、ここに入らざるを得なかった理由があることを説明させていただき、可能であれば閣下の御慈悲を乞うことをお許しください」


 マリーを庇うように前へ出たフェイが国王を前に跪く様にしたことで、マリーたちも我に返り、同じように頭を下げる。ドラゴンは四人を見回した後に鼻から息を吹き出して、姿勢を直した。閣下と呼ばれたこともあってか、その佇まいには威厳が感じられる。


『よいだろう。その矮小(わいしょう)な身がもつ訳とやらを話してみよ。もし、下らぬ内容ならば一息で消し炭にしてくれよう』


 御伽噺でそのような言葉を聞けば、ありがちな言葉だと思うかもしれないが、今この瞬間においては全くの冗談には聞こえない。なぜならば、この空間に至るまでのいくつかの場所で、明らかに溶岩が普通に固まったとは思えないような場所があったからだ。それこそ、固まった溶岩が再度()()()()()()()()()、他とは違うところに流れ込んだような跡。ゆっくりと冷やされてできるはずの鉱石が浅い場所で見つかること。入って来た格子のような岩も岩壁が解けて、つららのように垂れ下がったまま固まったように見えなくもない。

 洞窟の中で涼しいはずなのに、全身を包み込む空気が火傷するかのような熱気に包まれているのは気のせいではないだろう。フェイは緊張のせいか、言葉が紡げなくなったようだった。

 すると、そのフェイの横にアイリスが音もなく進み出た。


「アイリス!?」

「私に任せて」


 いつもとは違う顔つきのアイリスに戸惑いながら、フェイはアイリスに一番前を譲る。


「ここからは私が話をさせていただきます」

『お主、何者だ?』

「アイリス」


 ただ、名を告げただけのアイリスに近くにいた三人は、困惑の表情を浮かべる。恐らく、それはアイリスの物言いがあまりにもはっきりし過ぎていたからだろう。そのぶっきらぼうな言い方がドラゴンの気分を害さないか心配で、誰が聞いていても心臓に悪い。


『なるほど。この大地の水の加護を得た者か。続けよ』


 しかし、意外にもドラゴンは不機嫌になるどころか。物珍しそうに頷いているようにすら見えた。対して、アイリスは普段の間延びした声から一転、堂々とドラゴンへと言葉を紡ぐ。


「ことの発端は我々の友人である吸血鬼の真祖が、魔法を使った後、謎の症状で苦しんだことから始まっています。吸血鬼という種族の偏見もあってか、我が国の宮廷錬金術師に治療という名目の下、幽閉されております。我々としては信用できず、彼女の救出に必要な素材を探して助けようと動いていたところです。我々の浅はかな知識をかき集めてたどり着いた結論は、火の魔力を含んだ鉱石が必要だ、ということです」

『故に、そこにあった窪みから鉱石を採取していたということか』

「その通りです。閣下。失礼とは存じておりますが、何卒、御慈悲を」


 フェイと同様にアイリスが礼儀正しく、ドラゴンへと傅く。玉座にもたれかかるように首を逸らすとドラゴンの目が閉じられた。

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