鋭き目で射抜くものⅠ
まるで寒空の下で焚火に群がっているかのように縮こまり、フェイたちは休憩をすることになった。ユーキの渡したポーションは、怪我を治すタイプのものではなく魔力などを回復させるタイプのポーションだ。魔力生成は肉体面にも精神にも作用するため、魔力回復のポーションは結果的に四人の緊張はかなり解すことができた。
「まったく、何だったんだ? さっきの音は」
「ただの風が洞窟を通る時に出した音だろ。そんなに緊張することないって」
魔眼を通してみた音波が、何かしらの効果を持っていたのは間違いないとユーキは思っていた。だが、あえてそれは否定した。幸か不幸か説明できるだけの知識がなかったとも言える。
もし、仮にここでとある知識があったのだとしたら、ユーキ自身は別の説明か、決断をしなければならなかっただろう。
「……とりあえず、僕はもう大丈夫だ。みんなは?」
「あ、あたしは何とか立てる程度には」
「わ、私も」
アイリスは声にこそ出さないが、首を縦に振って頷く。休憩している途中まで涙目でいた姿を見ると、これ以上進むのは躊躇われるような気がした。それでも、全員の気持ちは前へ進むことに向けられている。
ユーキは立ち上がると音が聞こえてきた方へと目を向けた。相変わらず、そこにはヒカリゴケが淡い光を放ち行く先を照らしている。
「まぁ、どうしようもない時は逃げればいいさ。その時は別の方法を探そう」
上手くいかなかったときの言い訳を自ら出して、一歩前へと進む。一度だけ、振り返ると四人も各々の武器を手に陣形を組んでいた。
恐る恐る足を進めていくが、謎の音はなりを潜め、水が滴る音と足が苔や砕けた岩を踏みしめる硬質的な音のみが響く。目、耳、鼻、肌の感覚器官を極限まで研ぎ澄まして異常を探すが、どこにもおかしなところは見当たらない。
フェイたちは先ほどの恐怖感が残っているのか歩むスピードも少しばかり最初に比べて落ちている。その分、ユーキは周りの様子を見る余裕が生まれていた。
「(赤、青、緑、黄、紫……色んな光が見えるけど、どれも小さいな。もう少し、基準があれば小さい物でもたくさん採掘して戻るんだけど。今はできるだけ大きい物を探すしかないか)」
気が滅入りそうになるほどの細かい光の粒子を尻目に、ユーキは再び目の前が二手に分かれていることに気付いた。近づいていくと他の四人も気付いたようで、より緊張が高まる。
意外なことに近づいた際に飛び出てきたのは、鉱石トカゲが数匹。最大限に警戒していた四人の連携は抜群で、一瞬で黒焦げと真っ二つになった素材が揃うこととなってしまう。その分、疲労は激しく。たった数秒の出来事だったのに、気付けば誰もが肩で息をしていた。
「さて、片方は上り路。もう一方は下り路。上りは狭くなっていて、下りは今まで通りの道幅か」
「ここに潜ってから結構時間が経ってるな。専用の装備もない以上、本当に一度戻ることも考えた方がいいかもしれない」
ユーキは腕時計の時刻を見ながら呟いた。あまり長い距離を移動したようには思えないが、時計は既に十一時を示していた。日が昇る前から活動していることを考えると休憩を挟んでいるとはいえ、体力が心配になる。
「いや、このまま行こう。せっかく鉱石も見え始めたんだ。まだ行ける」
「それじゃあ、今まで通りの陣形が使えそうな下り路にしよう。ただし、マリーたちは後ろから何かが接近するかもしれない。前は僕たちに任せて後ろの警戒を頼む」
ふとユーキはマリーの言葉に、何かのゲームで聞いた言葉を思い出しそうになるが、フェイの指示であっさりと思考が次に進む道の方へと揺れてしまう。
数十分後にユーキは思い出すことになる。とあるネットゲームの攻略サイトに書かれていた言葉。『まだ行けるは、もう危ない』
それは、皮肉にも冒険者ギルドに掲げられた言葉と同様の意味であった。
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