未知の洞窟Ⅸ
歯を食いしばるユーキだったが、真っ赤な閃光は手前数メートルで防がれていた。円柱状の柱を避けるように左右へと別れ、ユーキへは届かない。
「あー、そっか。ユーキの作った、あの結界。まだ有効なのか。それ考えるとなんかずるいよな」
「――――はぁ?」
マリーが感心した声を上げると、フェイは拍子抜けした声で防がれた炎を見る。炎を弾き続けるユーキの背中を見てフェイは思わず見入ってしまっていた。対して、その本人はというと――――
「(っぶねー。死んだ。俺、今、絶対死んでた。結界あって良かったー! 魔力管理、超大事!)」
――――超混乱していた。
結界が守ってくれていることを把握した後は、落ち着いて火の来る方向へとガンドを撃つことで対処できた。
もし、一歩間違えて、魔力の配分を間違った挙句、指先の向きをミスっていたら、洞窟を再び崩落させていたかもしれない。
「いやー、危なかった、危なかった」
「危なかった、で済むか! 結界とやらが効かなかったら、どうするつもりだったんだ!」
フェイがユーキの胸倉を掴むが、当の本人は何故フェイが怒っているのかわからずに、きょとんとしている。
「いや、危なかったら、とりあえず助けるだろ?」
「そうじゃなくて……いや、君に言うだけ無駄だな」
心底呆れたようにため息をついて、掴んでいた手を離すとユーキの両方のほっぺたを掴むと思いっきり引っ張った。
「あ・り・が・と・よ。い・つ・か・か・り・は・か・え・す・か・ら・な、っと」
「いひゃい! いひゃい!」
思わずフェイの肩をタップして助けを求めるが、なかなか離してくれない。その光景を見て、アイリスはわずかに微笑んだ。
「楽しそう。私も今度あれやってみたい」
「みへなひでたふけへ!」
最後に思いっきり引っ張って手を離すと、よほど怒っていたのか顔を真っ赤にして落としてしまった剣を拾い上げに進んでいってしまう。
ひりひりする痛みに思わず頬を撫でているとサクラが近寄ってきて、反対に顔を両手で包み込んだ。
「え? ちょっ!?」
「いいから、動かないで」
真剣な顔に強く言われてしまい何も言い出せずにいると、サクラはユーキの顔を左右に動かしたり、皮鎧の部分やコートの腕を捲ったりして確認している。一通り上半身を確認し終えるとサクラの顔がいつものような笑顔に戻った。
「もう、ユーキさん無茶しすぎ。私、結界のこと忘れてたから、どうなるかと思っちゃった。怪我も火傷もないみたいだけど、無理はしないでね」
「あ、はい。気を付けます」
あまりにも優しい言葉に思わず敬語になってしまう。お互いに、そこから無言で見つめあってると横からマリーがにやにやと二人の顔を覗き込んでいた。そのすぐ下にはユーキの顔をじっとみるアイリスがいる。
「マ、マリー!? どうしたの、いきなり」
「いやー。あんなに危険な戦闘の直後でも、こんなに落ち着けるとはさすがだなぁって」
マリーはサクラをからかいに来たようだが、アイリスの方は純粋に鉱石トカゲのことが気になって仕方がないらしく、手を挙げてトカゲたちがいた方を指差していた。
「ユーキなら安心してブレスが見られる。わんもあ」
「絶対にやらん!」
いつ結界が破られるかもわからない中で、棒立ちするなど心臓に悪すぎる。
「ほら、怒ったフェイに置いてかれる前にユーキは前に急ぐ急ぐ!」
マリーはユーキを反転させると、背中を押して前へと追いやる。既に前方ではフェイがトカゲの背の結晶を取り終わって、奥の方を見張っていた。
「……準備はできたか?」
「悪いな。遅くなって」
「かまわないさ。それよりも、ここからは、より注意が必要だ。何か嫌な予感がするからな。入る時に感じた以上の何かを感じるんだ」
ユーキはフェイに言われて、奥を魔眼で見渡すが、先程と光景は一切変わらない。ヒカリゴケの色と散りばめられた極小の鉱石が放つ光だけだ。
「そうか。とりあえず、さっきと同じように進んでいこうと思うんだけどさ。後ろから襲われる可能性ってのはないよな?」
「何故だい?」
「いや、さっきのよりも小さい奴だったら岩の穴の間から出てきそうだなって思ってさ。ここは溶岩が固まった後だからか、小さいのから大きいのまで穴がたくさんあって見切れないんだよ」
「なるほど、確かにな。だけど鉱石トカゲがブレスを吐けるようになるのは、大人になってからだ。最低でも僕らの身長の半分は超えないと無理だから、そこまで心配する必要はないはずさ」
お互いに剣と刀を構えると後ろを振り返る。そこには先ほどと同じように並んだ三人が杖を構えて待っていた。
「さて、ちょっと速度を上げないと日没までに帰れそうにないな。天然モノだと長いのか、短いのかも判断がつきにくいから困る」
再びフェイが歩き始めると奥の方から生暖かい風が吹いてくると共に、低い管楽器のような音が体全体に響き渡る。魔眼には靄のようなオレンジ色の波が何度も押し寄せて体へと叩きつけられた。十数秒間続いた謎の音波は次第に強さを失い、やがて元の静寂が戻ってくる。ユーキは見回すと自分以外の四人が膝をついていることに気が付いた。
「おい、一体どうしたんだ?」
「わ、わからない。わからないけど……」
サクラが自分の体を抱きしめて震えだす。アイリスも近くにいたマリーにしがみ付いて、目を閉じて震えていた。
「やばい、何かわからないけど、これ以上進んだらやばいことになる。わかるんだよ、言葉にできなくてもさ」
マリーもアイリスを片手で抱きしめながら耐えているが、足は震えてまともに立ち上がるには時間がかかりそうだった。フェイは何とか片膝立ちで歯を食いしばっているけれども顔色は真っ青になっている。何が起こっているかわからず、ユーキは手持ちのポーションを四人に分けて、周囲を警戒することにした。予想外の出来事に立ち止まることを余儀なくされるが、落ち着いた状況でなければ探索は不可能だ。ユーキも戦闘で昂った気を静めるために、水を口に含んで喉を潤した。
【読者の皆様へのお願い】
・この作品が少しでも面白いと思った。
・続きが気になる!
・気に入った
以上のような感想をもっていただけたら、
後書きの下側にある〔☆☆☆☆☆〕を押して、評価をしていただけると作者が喜びます。
また、ブックマークの登録をしていただけると、次回からは既読部分に自動的に栞が挿入されて読み進めやすくなります。
今後とも、本作品をよろしくお願いいたします。




