未知の洞窟Ⅷ
一発目は見事トカゲの頭を撃ち貫き、後を追った二発目が地面を撃ち砕く。三発目を撃とうと右の壁から迫る影へと手を向けると、その横を石礫が高速で駆け抜けた。ブレスを吐こうとしていた口に入り込み、そのまま内臓を食い破る。わずかに口から緑色の血液と共に赤い火を吐き出して、躯は地面へと落ちた。
「ナイス、援護」
振り返らずにサクラへと賛辞を送り、地面を這ってきた三匹目に照準を合わせる。既にトカゲは足を止めてブレスの体勢に入っており、それを認識した瞬間、ユーキの背筋に悪寒が走る。
「(間に合えっ!)」
ガンドと炎のブレス。放たれたのは同時であったが、威力と速度に関してはガンドに軍配が上がった。火炎放射器というよりは炎の槍のような勢いで迫るブレスの中心を引き裂いて、ガンドはトカゲの口内へと飛び込んでいく。一拍遅れてトカゲが口を閉じると、背中から生えた結晶体が赤く輝いて天井に届くくらいの火柱となった。
「うわっ!? なんだこれ?」
驚いたのはトカゲたちも一緒のようで、突如、燃え上がったトカゲから逃げるように距離を取る。そこを逃さず、マリーとアイリスが風の魔法で各個撃破。近づく前にトカゲたちの数は大きく数を減らす。
「おっし、二匹同時。いいねぇ、気持ちいいねぇ」
「ブレス。もうちょっと見てみたいけど、仕方ないよ、ね」
テンションの真逆な二人が次々と詠唱を重ねる。フェイは地面から這いよるトカゲを一気に飛び込んで、斬るというよりは、洞窟の奥へと叩き飛ばして詠唱の時間を稼ぐというような戦い方をしていた。
しかし、トカゲと言えど知能はあるらしく、魔法よりも素早く準備が整うブレスで飛び込んできたフェイを狙い撃ちにしようと、天井と壁から二匹のトカゲが口を開く。
「――――しまった!?」
バックステップで距離を取ろうとした矢先、足元のくぼみに足を取られて姿勢を崩してしまう。尻もちを着く形になり、女子たちからは魔法が放ちやすい形になったが、運の悪いことに詠唱が終わるには最低でも一秒はかかる。
たかが一秒。されど一秒。これだけの余裕があれば、詠唱を必要としないブレスはいともたやすくフェイへと襲い掛かるだろう。
ユーキは一か八かの賭けに出るために、ガンドへ込める魔力を先程の数倍にはね上げた。
「(狙いは大雑把で構わないから、威力を上げて巻き込んでやる。崩れてくれるなよ?)」
ほぼ感覚で魔力を制御し、指先へと収束させていく。壁、天井の順にトカゲへと高速でガンドを放った。一発目は岩壁ごとトカゲを抉り抜き、二発目は反動で狙いがずれてトカゲの真横へと着弾した。遅れて魔力の膨張による小規模な爆風が壁と天井からフェイへと襲い掛かる。
腕と剣で顔を庇っていたフェイは一発目の衝撃で横に吹き飛ばされて転がった。数秒遅れて、フェイがいたところには、バスケットボールのような大きさの岩の塊が小さい瓦礫と共に落ちてくる。転んだフェイに噛みつこうと這ってきていたトカゲが二匹、天井の崩落に巻き込まれて姿が見えなくなった。
粉塵が舞う中でユーキはフェイへと駆け寄って、後ろから抱え起こすとフェイが呆れた声で文句を言う。
「お前……僕を殺す気か?」
「悪かったな。ブレスと岩、どっちの雨が喰らいたかった?」
「どっちもお断りだ」
崩落は一時的なものですぐに収まったが、視界は十全ではなくトカゲの位置が把握しずらい状況になってしまった。おまけに天井の崩落でヒカリゴケの光量も減り、さらに敵の捕捉が困難になる。
「一度下がるぞ。視界が確保できたら、また前に進めばいい」
「そうだな」
フェイの背を押して下がらせた直後、進行方向の煙の中から紅の閃光がユーキへと襲い掛かった。ガンドで反撃しようとして、思わず硬直してしまう。
「しまった。魔力切れ――――」
最初に三発、フェイを救うのに二発、計五発。ユーキの連射可能弾数を全て使い切っていた。ガンドのための魔力を右手に集めようと急ぐが、それはあまりにも悪手だった。
戻ろうにも上手く体は動かず、反撃しようにも魔力が追い付かない。せめて、フェイだけは逃がさねばと左腕で突き飛ばす。
「ユーキ!?」
驚いたフェイが声を上げるが、ユーキは振り返らずに人差し指を向かい来る焔へ突き付けた。
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