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異世界魔瞳探索記「あなたの世界は何色ですか?」~極彩色の光が見える魔眼を手に入れて、薬草採取から魔物討伐まで縦横無尽の大活躍~  作者: 一文字 心
第1巻 極彩色の世界

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非才は時に才と成るⅥ

 学園長の部屋を出た後、ユーキとサクラの間には気まずい空気が漂い、沈黙の時間が過ぎていく。


 どちらも扉の前で立ったまま動かず、ユーキはサクラの横顔を恐る恐る見た。



「――しました」



 正面を見据えたまま、サクラは呟いた。



「心配しましたよ。ユーキさん」



 目尻には涙がたまっている。でも、その表情はいつになく真剣で怒っていた。



「その、すまない。俺もこんなことになるなんて思ってなかった」


「ガーゴイルに連れ去られるユーキさんを見て、心臓が止まるかと思いました」



 自分の不注意で、こんなにも心配させてしまったことにユーキは罪悪感を感じた。ただ、サクラにかける言葉が見つからない。


 そうしている間にサクラは続けて言葉を紡ぎ出す。



「――私が、何で怒ってるか、わかりますか?」



 俯いたサクラの表情はユーキからは見えない。先ほどたまっていた涙が一つ、二つと床へとシミを作る。



「その……サクラのいないところで、魔法を使って結界を壊したから、か?」



 サクラは首を縦に振った。



「ユーキさんは危ないことをするような人ではないし、無茶もしないだろうと思っていました。でも、一歩間違えれば大怪我をしていたかもしれないんですよ」



 たった数日の付き合いなのに、ここまで心配してくれるサクラに、ユーキは申し訳なさで胸が締め付けられる。



「その、俺が軽率だった。危険なことをしないとは言いきれないが、できるだけこんな行動はとらないようにするよ」



 袖口で涙をぬぐったサクラは覗き込むようにユーキを見てくる。黒曜石のような黒い瞳に自分の顔が映っていた。



「約束できます?」


「あぁ。もちろん」



 サクラは頷いて、小指を差し出した。この動作は、小さい頃からユーキも経験したことのある()()だろう。ユーキも同じように小指を差し出して、どちらからともなく優しく絡める。



「ゆーびきーり、げーんまん、うーそつーいたらデテル薬草飲ーます! ゆ――」


「――待った」



 ユーキは離そうとした指に力を入れて、もう一方の手を上げる。


 彼女はいま何と言ったのか。聞き間違いでなければ、最上級の薬草の名前だったはず。ユーキとしては、どうしてそれがこの場面で出てくるのか理解できなかった。



「なぜ、ここでデテル薬草?」


「危ないことしたら怪我すると思うし、回復させないとまずいですよね?」



 当たり前だと言わんばかりに返答があった。こんな時まで心配する優しさが出て来るとは、サクラは聖女か何かなのかもしれない。



「あ、ただし、デテル薬草自体はすごい苦いらしいですよ。あと、すごく高いです。多分」



 前言撤回、天然腹黒聖女という称号がユーキの中で彼女に与えられた瞬間だった。返答後でも表情を変えないサクラはきっと大物に違いない。


 その後、ゆびきりを終えて、学園の毒草地帯へと向かうことにした二人。年季の入った壁からは、ほんの少しカビのような臭いが漂ってくる。


 階段を下り、そのまま外に出れるかと思ったら、廊下で隣の塔へ。また、下ったと思ったら更に違う場所に繋がる階段へと続く。


 冷静に考えてみれば、一番高い塔に直通の階段を作るということは、敵に攻めてくださいと言っているようなものだ。それ故に入り組んでいるのだろうが、外に辿り着いた時には学園長室を出て十分ほど経過していた。


 もし、学園長室に呼び出されようものなら、次の授業へは遅刻を覚悟しなければならなそうだ。


 そんな話を振るとサクラもいつものような笑顔に戻り、会話も弾み始めた。そのままサクラがいない時の依頼の話などにも会話を広げると、サクラの食いつきもよくなる。また王都の外の話には、あまり外壁の外に出ないためか、真剣に話に耳を傾ける。



「へー、そうなんですか。この都市から離れていない所に生えるなんて、珍しいこともあるんですね」



 先日のレプロテル薬草の場所について興味津々な辺りは、普段から魔法などに触れる人間は新しい知識に貪欲なのかもしれない。そんな話をしている時に、ふと気づいたことをユーキは口にした。



「そういえば、サクラって、会った時には敬語をあまり使ってなかったけど、急に使いだしたよね」



 クレアにタメ口を使うように言われたことを思い出してユーキは気付いた。確か、その違和感を感じたのは、魔眼の検査が終わる前後辺りだったはずだ。きょとんとしていたサクラだったが、途端にばつが悪そうに笑う。



「ほら、ユーキさんって魔眼持ちですし、パッと見ただけだったので読めませんでしたけど、苗字があったじゃないですか。もし、どこかの偉い人だったら大変なことになっちゃうなーと思いまして」



 昔の日本でも苗字を名乗るのが許されたのは武士や貴族だった――というようなことが教科書に書かれていたような気がした。


 サクラは一緒にギルドで水晶玉によって書き出されたプロフィールを見ていた。確かにそういう事情なら、身分として相手が各上の貴族だった場合は、相手によって大変なことになる。

 慌てて、ユーキは目の前で掌を振った。



「安心してよ。俺はただの平民と同じだ。むしろ、そういう意味じゃ俺の方が敬語を使わなければいけないんじゃないの? コトノハさん?」



 ルーカスがサクラを呼んだ時は「ミス・コトノハ」だった。つまり、彼女のフルネームはサクラ・コトノハになるはずだ。



「私は代々家が魔法使いの家系なだけで、そう名乗っているだけです。お父さんが言うには没落貴族のようなものだとか。『(こと)()』――――つまり詠唱をする『言葉』を扱う家ということで付けられた苗字だそうです。だから、今まで通りに接してください。じゃないと、本当に怒っちゃいますよ?」


「そうか、お言葉に甘えさせてもらうよ。サクラも楽な話し方で大丈夫だよ」


「あはは、最近ユーキさんには敬語しか使ってなかったから元に戻るかなぁ? それに私より年上だから……」



 話している間に毒草のある場所に辿り着き、今日は採取をせずに明日からやることにする。


 他愛もない話をしながら、門までユーキはサクラに送ってもらった。手を振る彼女にユーキも手を振り返す。



(当分、サクラには頭が上がらないな)



 内心、反省と感謝の気持ちを抱きながら、ユーキは学園を後にした。

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