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異世界魔瞳探索記「あなたの世界は何色ですか?」~極彩色の光が見える魔眼を手に入れて、薬草採取から魔物討伐まで縦横無尽の大活躍~  作者: 一文字 心
第4巻 消えた焔は地の底に

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未知の洞窟Ⅵ

 慎重に周りを確認しながら進むこと十数分。ヒカリゴケや僅かに生えた薬草以外ほとんど何も発見できずに、焦燥感と緊張感が全員の心を支配し始めていた。幸いなことに分岐点などはなく、一本道であったため、帰り道には困らなそうではある。


「この洞窟、一体どこまで続いているんだ? ゆっくりといっても、かなり進んだはずだ」

「あたしはもっと、宝箱とかトラップとかモンスターがあるイメージだったけど、天然モノだとかなり違うんだな」

「勝手にできた洞窟に宝箱や罠は置いてないんじゃないかなぁ?」


 学園のダンジョンを進んだせいで、天然のダンジョンに対する過剰な期待があったのだろう。杖先で空に円を描きながらマリーが落胆する。


「逆に言えば、生物だけには気を付けないといけないってことだよな。……ただでさえ、魔力が濃い場所かもしれないんだから」


 最後の方は周りには聞こえない声で呟いた。魔眼に映る色は普段は物体のあるべき場所にしか見えないが、奥に進むにつれて、朧月夜のような光が何十センチも立ち上っている景色を捉えていた。もし薬草などを持ち帰っていたら、プロテル以上の質のいい薬草と言われたかもしれない。

 だが、今回の目的はあくまでルビー。あるいはそれに類する火の魔力を含んだ宝石を見つけること。その点においては、ユーキの魔眼はうってつけだろう。

 しかし、あちこちの壁の中から赤い光が見えないかを探しても、一欠片も存在を見出すことはできなかった。


「何も、生き物がいない。一体、なんなんだこの洞窟は?」

「でも、何かあると思う。さっきから肌がひりつくような何かを感じる、よ」


 アイリスが目を凝らして奥の方を見ると初めての分岐点が姿を現した。近づいていくと右側はより暗く、左側は今までと同じように明るい道が覗いていた。先頭を歩いていたフェイはどちらに進むべきかを後ろを見て判断を仰いだ。


「ど、どうする?」


 マリーも洞窟での活動経験が少ない為、動揺しながらサクラとアイリスを交互に見る。アイリスは黙ったまま暗闇の方を見つめ、サクラは慌ててユーキの方へと視線を送る。

 ユーキは逡巡した後、アイリスが暗い道の方へと顔を向けていることに気付いた。先程よりも奥を見るようにして魔眼を開くと同じように見えていた光景が、少しずつ変化をしていく。まるで夜の暗闇に慣れてきたかのように、奥の光の瞬きが次第に見えてきたのだ。細かい光の粒がいくつも乱反射を起こしているような、あるいは天に満ちた星が存在しているかのようにも感じる。その光の中には微かに赤色を放つ物も見えた。


「――――こっちにしよう」

「マリー、いいかい?」

「何であたしがリーダーみたいな位置付けなんだよ。どっち選んだって一緒だからユーキが言った方に任せるぜ!」


 軽く息をついたフェイは革袋から棒を一本取りだすと、進む方向にある道の真ん中に傾きをつけて突き立てた。


「万が一迷ってもこれで大丈夫だ。ただし、暗いからここから先は松明が必要になるかもしれない。完全な暗闇になる前に一度止まるのを忘れないように」

「了解。止め時はフェイに任せるよ」


 ユーキが右肩に乗せた刀に左手を添えて前に出るとフェイは下段に構えたまま横に並ぶ。ゆっくりと進んでいくと、さらに曲がり角があるのか壁が見え始めていた。


「行き止まり……? いや、右に曲がれるか」


 フェイが呟いているとその曲がり角から黒い影が飛び出した。

 四足歩行で壁を這うように素早く移動する。移動した後には細長いものがついて回り、全長は一メートルにも届こうとしていた。暗闇でも微かに光る目玉がギョロついてユーキたちの姿を捉える。


「トカゲ!?」

「まずい、仕留めるぞっ!」


 フェイは言うや否や飛び出して、剣を突き出す。トカゲは素早く天井へと逃げるが尻尾の根元に剣が刺さり、そのままフェイに剣ごと振り回されて地面へと叩きつけられた。昏倒して動きが鈍ったトカゲにフェイは腰の短剣を引き抜いて頭へと突き刺す。


「ギュアアアアアッ!?」


 形容しがたい甲高い声が洞窟内に響く。ユーキもフェイに追いすがり、首の根元に刃を突き立てると、硬い衝撃で押し返される。切っ先が半ばまで埋まっていたので体重をかけて奥に押し進めると、ゴボゴボという嫌な音がトカゲの口から響いた。数秒も経つと体が痙攣し始めて、やがて四肢から力が抜けて地面へと投げ出される。


「危なかった。まさかこんな生物がいるとはね」

「何なんだ。このでっかいトカゲ」

「鉱石トカゲだよ。坑道内に住み着いて、鉱石に宿る魔力を吸って生きているんだ。問題なのは攻撃方法でね。吸った魔力を魔法のように吐き出してくる」


 フェイが短剣を引き抜いて背中側を指し示すと、ユーキが貫いた首元から尻尾の付け根にかけてステゴサウルスを彷彿とさせるような硬い鱗が突き出ていた。


「鉱山夫には嫌われるが、一部の貴族や錬金術師たちがこういうものを好んで集めていてね。いい金になるんだけど、油断して近づくとブレスでやられる。おまけに何の属性のブレスかは、食べた魔力の属性によって変わるから面倒なんだ」


 短剣で背中側の鱗を剥がすとフェイは革袋へと仕舞う。長剣を引き抜いてトカゲが来た方向を見ると魔眼でなくてもヒカリゴケの光に混じって様々な色が壁に反射していた。

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