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異世界魔瞳探索記「あなたの世界は何色ですか?」~極彩色の光が見える魔眼を手に入れて、薬草採取から魔物討伐まで縦横無尽の大活躍~  作者: 一文字 心
第4巻 消えた焔は地の底に

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未知の洞窟Ⅲ

 冒険者ギルドへと向かう道すがら、ユーキは鈍く痛みを発する頭頂部を撫でさする。その後ろでは、マリーの背中へ隠れる様にして、サクラが顔を真っ赤にして歩いていた。


「まったく、今日が非番で助かった。君のような危険な男を野放しにしておくわけにはいかないからね」

「やっぱ、理不尽だよなぁ」

「なーにーかー!?」

「いえ、俺が悪かったです。はい」


 ユーキがマリーに起こされて意識が戻る頃には、サクラも事情を把握していた。ジャパニーズ土下座の形へ間髪入れずに移行できたのはユーキ自身も驚きだったが、サクラは頷いて謝罪を受け入れたきり、今の状態である。

 すべての元凶で悪びれた様子のないマリー(とアイリス)へ怒りが沸き起こるが、心の片隅で怒りきれない自分がいることに気付き、複雑な心境だ。怒りの矛先を向けるに向けられず、ふと顔を上げればフェイに並ばれて冒険者ギルドの目の前に辿り着いていた。一瞬だけ、このままギルド経由でどこかに突き出されないかと不安に陥る。


「一応、事情は聴いてる。さぁ、あの子を助けるんだろう? 早く動け。この変態」

「はいはい、わかりましたよ。ちょうど、夜も明ける頃だし、ギルドでロジャーさんの居場所がわかると良いんだけどな」


 門を通ると、やはり中には依頼を求める冒険者の一団が今か今かと待ち構えている姿が目に入った。そんな一団を尻目に、ユーキはカウンターの中でも見慣れた顔の人物の下へと進む。


「あら、ユーキさん。こんな朝早くに来るなんて珍しいですね」

「コルンさんも朝からお疲れ様です。少しお願いしたいことがあるんですがいいですか?」


 勇輝はすぐに頷いてくれたコルンに感謝しながら目的の人物について問う。


「以前、コートの仕様について依頼を受けた錬金術師のロジャーさんと連絡が取りたいのですが、どうすればいいんですか?」

「錬金術師の……ロジャー・ハイド・ウォラストンさんですね。それならば、ちょうどギルドの依頼で奥に泊まり込んでいらっしゃるのでお呼びしましょう。先程も起きていらっしゃったので大丈夫だと思います」


 意外に早く相手が見つかったことに全員が顔を見合わせていると、奥から不機嫌そうな顔の老人が出てくる。


「まったく。魔道具の鑑定より、作る方が仕事だというのに。せめて、もっとましな物を発掘してこんかボンクラ共めっ」

「ロジャーさん」

「おっと、若造か。そのコートの件だが大分設計が進んだぞ」


 ユーキを見るなり、片手を上げて喜色満面の笑みで近寄ってくるロジャー。まるで孫が遊びに来た時のようなはしゃぎぶりだ。


「すいません。実はお聞きしたいことがあるんです」


 フランが吸血鬼だということを伏せて、火の魔力が籠った宝石を探していることを伝えるとロジャーは顔をしかめた。


「天然の魔力が籠った宝石、か。有象無象の雑多な魔力が溜まったものなら、そこらにいくらでも転がっているが、純粋な単一属性で宿った宝石なんぞ、流石の儂でも手に入れたことがあるのは少ないぞ。あるとするなら、それこそ火のドラゴンの住処くらいか。あるいは、溶岩のようなものが近くにあるダンジョンだ」

「そこを何とか教えてほしいんだ」


 頭を掻きむしりながら呻くロジャーにマリーが詰め寄ると思い出したように手のひらを叩いた。


「魔力が籠っているかは別だが、宝石の産出地ならいくらでもある。そうさな。一番近いところだと、()()()()()()()()()使()()()()()()なら昔、よくルビーが出ていたな。ルビーは赤色だから炎との相性もいい。傷物でなければ少しくらいは宿っているだろうな」


 腕を組んで昔を懐かしむかのようにロジャーは話を続ける。


「確か、最後に手に入れたのは『緑の谷』に迷い込んだ時でな。周りの連中には夢でも見ていたんだろうと笑われたが、立派なルビーやサファイアといった単一魔力を溜め込んだ宝石を見せてやったら、腰を抜かしおってな。あの時ほど気持ちのいいものはなかったわ」

「あの……みなさん、もう行ってしまわれましたよ」

「なにっ!?」


 ロジャーが慌てて周りを見回すとユーキたちは既に冒険者ギルドから姿を消していた。そんな惨状を見て、ロジャーは頭を抱えた。そんなロジャーをコルンは冷ややかに見下ろして口を開く。


「まったく、自分の自慢話ばかりするのは悪い癖ですよ。それに、いいんですか? あの洞窟は、最初こそ宝石が産出されたものの、すぐに()()()()()()じゃないですか」

「む……そうだったか?」


 ロジャーはしまったとばかりに額に手を当てる。そのまま顎まで手を下ろして、低く唸りを上げていたが、目をカッと開くと言い放った。


「ま、なんとかなるじゃろ」

「うわぁ。ロジャーさん。それは酷い」

「なーに。若いもんは少しくらい苦労しといたほうが将来のためになる。根性、根性!」


 大笑いしながら元の部屋へと戻っていくロジャーを見ながらコルンは、彼と入口とを交互に見て銀髪を揺らす。しばらく思案して出た結論は――――


「――――ま、ユーキさんなら大丈夫か」


 冒険中に冒険をしないことで定評があったためか、コルンも何か手を打つことはしなかった。そもそも、洞窟に行っても危険な生物がいるはずもないし、ギルドの職員がわざわざ止めに入るほどのことではなかったからだ。

 しかし、()()()()()()止めるのが正解だったのかもしれない。危険を常に回避しようとするものは、時に危険を前に引き返す術を知らないこともあるのだから。

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