未知の洞窟Ⅱ
衝撃の光景を目にしたフェイは、顔を真っ赤にして口を金魚のように開け閉めするしかできなかった。震える指でユーキたちを指示しながら、困惑の表情でマリーの方へと首を向ける。一瞬、マリーが目を逸らしたことでフェイは、元凶が誰かということは察したようだが、元凶と結果があまりにも結び付かないためか、動きを止めてしまった。
「ん! んんん!?」
「ん、すぅ……はふー」
強引に剥がすわけにもいかず、人肌の生暖かさと混乱の中で酸欠に陥るユーキに対して、サクラの方は非常に幸せそうに吐息を漏らす。苦しさから何度かユーキが頭を動かすと、その度に吐息を漏らしてきつく抱きしめる。
その光景に呆然としていた二名――――アイリスは微笑ましく見守っていた――――だったが流石にベッドを激しく叩く姿を見たフェイはまずいと思ったようで、すぐにユーキの下へ駆け出した。一瞬、動きを止めたフェイだったが、ユーキの頭を掴む腕へと手を伸ばす。
しかし、腕を無理やり剥がそうとするが、意外と強くホールドされており困難を極めた。
「なんて馬鹿力だ。この細い腕のどこにそんな力がっ!?」
仕方なく身体強化をして、加減を間違わないようにと、やっとのことで片腕を剥がすとユーキが思いっきり上半身を跳ね上げた。救出にあたっていたフェイは顔面直撃を避けるために仰け反り尻もちをつく。
「っはぁ。た、助かった」
解放されて大きく息を吸い込むユーキであったが、酸素が脳に回り始めると冷静な思考が働き始める。具体的に言うと、あるべきはずだった感触がなかったことに。
石像のように固まったユーキは視線だけをゆっくりと落としていく。そこには寝巻のボタンがすべて外れているサクラが両手を投げ出して寝ている姿だった。
「――――――――ッ!?」
辛うじて大事なふくらみは服の布地が覆っているが、それもかなり際どいところまで左右にずれていた。寝返りどころか腕を少しでも伸ばそうものなら、その隠れていた頂点が露になるだろう。
「……んふっ」
微かな寝言と共に僅かにサクラが身じろいだ瞬間、たった一枚の布が動く前にユーキは両の手でベッドを押しのけて反転する。そのまま目の前にいるフェイの首根っこを掴み部屋の外まで猛ダッシュで駆け抜けた。後ろからカエルの潰されたような声が響いた気がしたが、ユーキの耳には届いていない。近所迷惑など顧みず、ユーキはフェイを引きずり出すと後ろ手でドアを勢いよく閉めた。
「あ、あのー。ユーキサン? ワタクシモココマデニナルトハオモッテナクテデスネ」
「言い訳は良い。玄関で待ってるから、後は良いな?」
「ハイ、ヨロコンデ」
「サクラにも謝ること。返事は?」
「サー、イェッサー!」
鬼気迫る勢いでユーキがマリーへと人差し指を突き付けて告げる。心なしか構えがガンドを撃つようになっているのは気のせいではないだろう。突き付けられたマリーも冷や汗がドバドバ出てきて止まらない。アイリスだけが、状況を理解せずに首を傾げている。
マリーはアイリスの手を掴むとサクラの部屋へとつながるドアを素早く開けて、ユーキから逃げるように閉めた。
それでも気が収まらず、口から煙でも吐いているかのような気迫を出しているユーキの肩にそっと手が置かれる。
「一体、何――――」
「それは、こっちの、セリフだ」
鈍い音がユーキの鳩尾に炸裂すると一瞬にして視界が暗くなる。くの字に曲がって何とか立ち続けるユーキの上から、フェイが呆れた声で言い放った。
「原因はともかく結果としてレディの部屋に無断で侵入したんだ。場合によっては絞首刑だぞ。それと時間を考えろ。夜明け前からうるさい」
「り、不尽、だっ」
意識が飛ぶ寸前、ユーキの見上げた視界の中に入ってきたのは、フェイの寝巻だった。今回は同じ部屋で寝ていないこともあり、いつもと違う感じであることはすぐに気付いた。
先程は暗闇の中で見ることはできなかったが、黄色の布地に白い線がいくつも入って同じ絵柄が何個も散りばめられていることがわかる。一番、近い絵柄に焦点を凝らしたユーキは不幸にもそれを口に出してしまった。
「――――ねこ?」
「ぐっ!? うるさい、寝てろっ!」
頭頂部に走った鋭い痛みを最後にユーキは誰もいない廊下へと崩れ落ちた。
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