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異世界魔瞳探索記「あなたの世界は何色ですか?」~極彩色の光が見える魔眼を手に入れて、薬草採取から魔物討伐まで縦横無尽の大活躍~  作者: 一文字 心
第4巻 消えた焔は地の底に

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未知の洞窟Ⅰ

 伯爵家へと向かう道すがら、サクラがある一人の名前を思い出した。


「宝石ってロジャーさんなら、錬金術師だから何か知ってないかな?」

「――――あのヘンテコ発明家か」


 マリーとアイリスの顔はげんなりとしてあまり好印象ではなさそうだ。一体何を作ればここまでの顔を引き出せるのだろうかというくらいに歪んでいる。


「そういえば、このコートも改造するって話だったし、ちょうどいいかも。明日の朝になったら行ってみよう」

「いや、その人の住処。ユーキも知らないだろ」

「あ……」


 確かに、コートの改造方法が考え付いたら連絡するとは言われたが、こちらから連絡する方法を聞いていないことをユーキは思い出した。

 どうにかできないものかと考え始めた矢先にアイリスがユーキを後ろからつつく。


「ユーキ、こういう時こそ冒険者ギルドを活用する」

「え、何かいい方法があるのか?」

「まかせとい、て!」


 自信満々に絶壁に近い胸を張るアイリスにサクラとマリーも首を傾げる。どうやら、二人にも心当たりがないようだ。

 夜の闇が深くなる中、四人は急いで伯爵の家に向かう。その後、明日に備えて早めにベッドへと潜り込むのだった。

 翌朝、陽が出る前にユーキは目を覚まし、日課になりつつある素振りをせずに身支度を整えた。冒険者ギルドは基本的に年中無休二十四時間体制で稼働しているが、本格的に動くのは日の出から日の入り数時間後までだ。

 日の出前に掲示板に陣取り、良い依頼を狙うような冒険者も少なくはない。そんな中でユーキたちは時間を無駄にしないためにも、朝食を食べずに準備をしたのだ。


「ユーキ先生! 一人来ていない人がいます」

「いまーす」

「いつから俺が君たちの担任になったんだ」


 頭を抱えながらユーキたちはサクラの寝ている部屋へと進んでいた。ユーキは時計を見るとその時刻は午前四時半。普段なら寝ていてもおかしくない時間だ。


「しっかり者に見えて、サクラは朝が弱いからなぁ」

「え、でもこの前の護衛依頼の時は早く起きてたじゃん」

「ベッドで寝てると結構ねぼすけさん。こっちに来たばかりの時も遅刻気味だった」


 クスッとアイリスが笑うとマリーもニヤッと笑う。


「ま、それがきっかけで仲良くなったんだもんな。あたしら」

「うん。大親友」


 一体何があったかは分からないユーキだったが、今の三人の関係性を見ている限り悪いことではないんだろうと思った。

 そんな話をしている内に目的の部屋の前へと辿り着くと、ユーキはマリーとアイリスへ道を譲った。


「どうした? ユーキ」

「いや、一応、俺って男だからさ。部屋に入るわけにはいかないだろ」


 その言葉を聞いたマリーはなるほど、と言わんばかりにグーを手のひらに叩きつけた。そして、その目線が一瞬アイリスに向かったことをユーキは見逃してしまった。

 失念していたのだ。彼女たちが魔法学園の生徒会長にすら目を付けられかねない悪戯コンビだということを。


「よし、わかった。じゃあユーキはここで待っててくれ。アイリスが様子見てくるから、大丈夫なら一緒に行こうか」

「ちょっと待て、何で俺を引っ張る必要がある」

「いいからいいから!」


 ガチャッ、と扉のノブを回したアイリスが中に入るのではなく、扉の動きを慣性に任せ、何者かに道を譲るかのように右へとずれた。

 ユーキは背後に回り込んだマリーに怖気を感じ鳥肌が立った。そんなユーキが振り返る暇もなく、マリーが呟く。


「一度やってみたかったんだよね。アイリスミサイルならぬ()()()()()()()


 その言葉を聞くと同時にユーキは身体強化をかけて回避しようとするが、そこは発動回数という名の経験の差か。マリーの素早さに軍配が上がった。ボールのようにユーキを投げるのではなく、腰と肩甲骨の間の二カ所を的確に押して、僅かに仰角がつくように吹き飛ばされる。

 浮いてしまえば逆らうことは叶わず、ユーキは半分以上空いた扉へと勢いよく突っ込んだ。扉への激突を避けるために突き出した腕をそのままに前方へと投げ出されてしまう。

 ユーキは魔法石の僅かな光の中にサクラの影を見た。激突間際にせめて怪我をさせないようにと、その影を一瞬でとらえて抱え込む。扉を跳ね除けた扉が音を立てて壁にぶつかると同時に勢いよくベッドへと倒れ込んだ。


「いつつ……ごめん。大大丈夫……だった?」

「――――」


 手に感じた柔らかさを頼りに置き上がろうとしたユーキは、頭の後ろに手を回されて暗闇へと引き込まれる。あれだけの衝撃があったのに、ユーキの真上から寝ぼけたサクラの声が聞こえてきた。


「あと……半刻」

「長いな、おい。いや、普段なら間違ってないん、だけど……さ」


 ツッコミを入れようとしてユーキは、自分の今の状態がどういうものなのかを理解してしまった。自分の真上から声が聞こえてくるということは、サクラの顔があるということだ。そして頭の後ろには腕が回されている。この状況からわかることは、自分の顔に()()()()()()()()()()()は――――


「ひゃあー。これは、その、あたしもここまで予測していたわけではなくってだな。その……どうすればいい、アイリスさんや」

「仲が良いのは悪いことじゃない。私たち、グッジョブ」

「そ、そうなんだけどさー」


 顔を真っ赤にして慌てるマリーに、誇らしげに目を細めるアイリス。そこへ、近くの部屋から扉を開けて誰かが飛び出してきた。


「一体何事だ! そこをどいて……くれ」


 扉が壁に叩きつけられた音に驚いて飛び出てきたフェイがマリーをどけて、部屋を覗き込んだ光景は一般的に見て次のような一言で表されるだろう。

 ユーキがサクラをベッドで押し倒して、胸に顔を埋めている、と。

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