冥界への旅路Ⅴ
ブーツの匂い消し玉、洞窟や森での目印セット、荷物判別用の鉱石タグ、武器に着ける木彫りマスコットキャラなど実用品からおしゃれ用品まで、さまざまなものを見ていると時間はあっという間に過ぎ去ってしまった。
マリーがいくつかの商品を買いながら猫の木彫りマスコットを買っていたり、アイリスがずっと鉱石が嵌め込まれたヘアピンを見つめていたりと普段は見ない姿に内心驚かされたユーキだった。
「ま、そりゃ、年頃の女の子だもんな」
「そんな女の子たちを引き連れてるユーキさんはハーレム王か何かですか?」
「うわっ!?」
ユーキの横に並んだコルンは羊皮紙の束を抱えながら、ジト目でユーキを見る。眼鏡を直しながらコルンは向き直ると羊皮紙の一部をユーキに手渡した。
「一応、先月分の依頼を九つ分持ってきたので見てください。終わったら先程のカウンターに返却していただければ構いません」
「あ、ありがとうございます」
「それと、彼女たちにはしっかりユーキさんが買って、プレゼントしてあげなきゃだめですよ」
「そ、そういう関係じゃないって」
ユーキの慌てる様を見て、コルンは面白そうに肩を震わせた。反応に戸惑ったユーキだが、揶揄われたことに気付くと呆れた顔で見返した。
「コルンさんって、意外と悪戯好きなんですね」
「あの二人ほどではないですけどね。堅苦しい仕事してると、時々こういう風に息抜きしないとやってられないです」
「それに俺を巻き込むのはやめてください。とりあえず、これ、お借りしますね」
「はい。それでは頑張ってくださいね」
コルンがカウンターへ戻っていくところを見送って、ユーキは店内にいる三人に声をかけた。
近くのテーブルに羊皮紙をおいて、四方に座って囲むとマリーがおもむろにその内の一つを掴んで広げる。
「『依頼内容:森林内の調査依頼 報酬:十万クル、ポイント十(Cランク以上限定)』。生息動植物の異変の確認とゴブリン駆除で五日間でこれだけもらえるのか。あ、でもパーティだったら報酬山分けになるから旨味が少ないか。一人で森林見回るとか大変だし」
「それ事後報告達成になってるよ」
「ほんとだ、って、ちょっと待て、特殊扱いでユーキの名前が書いてあるぞ」
そこにはクレアと連名でオークの二体討伐の報告がされていた。ウンディーネに言われて変異したオークの対処で当時は忘れられていたが、サクラたちの中で記憶が少しずつ戻り始めていた。
「そうだ。ユーキさん、オークを一人で二体も相手にするなんて無茶しすぎだよ」
「確か、あの時は色々な噂が出てたよな。エルフが出ただの、うちの父さんがやっただの散々だったな」
苦笑いでごまかす傍らでアイリスが羊皮紙を掴みながら冷静に呟く。
「今は時間ない。急ぐ」
「「「……はい」」」
一番の年下、しかも普段は悪戯ばかりしているアイリスに言われたことに、三人はショックを隠し切れない。
「(あれ? でも最近、悪戯を受けていないぞ……?)」
そんな疑問がユーキの頭に過ぎるが、フランのことに頭を切り替えて目の前の羊皮紙へと手を伸ばす。
紙とは違う材質に未だになれないながらもスクロール上にしてある紐を解いて広げると依頼名が目に入った。
「『依頼内容:蜂蜜採取 支給品:煙玉2つ 報酬:一瓶五千クル、ポイント十(Dランク以上限定)』。あぁ、一発目から大当たりだ」
確か蜂相手に「肌を露出していて大丈夫なのか」と心配した記憶があるユーキは、その下へと内容を読み進めると「納品数二瓶」という報告箇所に目が留まった。
記憶が確かなら蜂蜜の瓶は三つ持っていたはずだ。それなのに二つしか納品されていないということはどういうことだろう。
「あのさ、蜂蜜とかって依頼で余分に手に入れたら自分で使ったりするのかな」
「食べ物としては高級品だからね。よほどのことがない限りは自分で買わないから、自分で食べるように余分に採ることはあるんじゃないかな」
他に話した会話を思い出すと薬草関連の話しかしていない。ウンディーネとの出会ったことは伝えたことはない。自然と辿り着く答えは薬草か蜂蜜になる。
「薬草も蜂蜜も禁書庫とは関係なさそうだな。本当にヒントなんてあるのか?」
マリーが他の羊皮紙にもヒントがないか探すが、討伐依頼ばかりで手に入れられる素材もありふれたものだった。そんな中、ユーキの羊皮紙を覗き込んだアイリスが小さく声を上げた。
「なにか、わかったの?」
「討伐依頼ばっかりなのに、ここだけ採取依頼っていうのがクレアらしくないなぁって」
アイリスに言われた通り、調べてみると討伐依頼の中に唯一混じっていたのが蜂蜜採取の依頼だった。
腕を組んで唸っているところに、通りかかった冒険者パーティの声が耳に入った。
「あーあ、一攫千金だと思って向かってみたら、何もなしかよ」
「どっかにドラゴンの隠し財宝とか落ちてねぇかな」
「ばっか、お前、俺は死にたくないからな。伝説級のバケモノ相手にしてたら、命がいくつあっても足りねえよ」
「だよなー」
会話の中にあったたった一つのワードがユーキにある物を思い出させた。
「マリー、家に蜂蜜はある?」
「何だよ。何か分かったのか?」
「あぁ、まさかこんな方法が通じるなんて正直思っていないけど試す価値はある」
ユーキは羊皮紙をまとめて立ち上がると言い放った。
「正面から堂々と入ってやる」
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