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異世界魔瞳探索記「あなたの世界は何色ですか?」~極彩色の光が見える魔眼を手に入れて、薬草採取から魔物討伐まで縦横無尽の大活躍~  作者: 一文字 心
第4巻 消えた焔は地の底に

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冥界への旅路Ⅱ

 何とか声を絞り出して謝罪を伝えたユーキは、母親であろう女性の方を向いて、驚きに目がさまよいそうになる。その女性の顔の三分の一を海賊のような大きな眼帯が覆っていたからだ。

 僅かに眼帯からはみ出している傷跡がその下に隠れているものの凄惨さを物語っている。


「あら、驚かしてしまってごめんなさいね」

「いえ、こちらこそ、ジロジロとすいません」

「いいんですよ。()()()()()()()ので。さぁ、行きましょう」

「うん。バイバイ、お兄ちゃん」


 頭の回らないユーキの目の前で扉が音を立てて閉まった。数秒固まったユーキだったが、口から思わず言葉が漏れ出た。


「サイテーだ。俺」


 自己嫌悪に苛まれつつ、ユーキは螺旋階段を上りかけて、もう一度、扉へと振り返る。「彼女たちは何故このような場所へ来たのか」という疑問が浮かんでくる。ここに来る人は限られている。ましてや、王のいる城に堂々と入れる人間は少ないはずだ。


「まさか、実験体とかじゃないよな……」


 腕のない少女と目のない母親。そして入っていった場所は黒い噂の絶えない宮廷魔術師の地下拠点。最悪の想像がよぎるが、頭を振って地上を目指す。今はフランのことだけでも手一杯なのに、他のことにまで手を伸ばす余裕はない。加えて言うならば、ここで騒ぎを起こせばフランを助けることすら不可能な状態になる可能性もある。急ぎ足でユーキは図書棟へと駆け出した。





「――――つまり、結果はわからないってことだな。それにしても女性二人を実験体にするとは、最低な野郎だぜ」


 図書棟で本を読み漁っていたマリーの第一声は、不要な時間を割いたことへの不満さが見え隠れしていた。尤も、それ以上にエドワードへの怒りが収まらない様子である。


「当初とやることは変わらないけど、実際に目で見たことは大切だと思う。それに、何もヒントがなかったわけじゃない。エドワードは薬を調合していた。その中に硫黄が含まれているのは、臭いでわかったんだ」

「三元質における硫黄は、四元素の火と土の属性に当て嵌まる。火の魔法を使って様子がおかしくなったことと関係があるかもしれない」


 アイリスが読んでいる本から顔を上げてユーキの話を補足する。おもむろに席を立つと回廊へと姿を消した。数分後に戻ってくると錬金術の本を取り出して広げる。何ページか捲ると目的の内容を見つけたのか読み上げ始める。


「錬金術の方は得意じゃないんだけどー……あった。『人間の肉体は土。血液などは水。そして、魂は火の要素から成り立っている。しかし、火を生命力として扱うには、外界から風を取り込む必要がある』だってさ」

「じゃあ、フランさんは、火か土の要素が足りていないってことかな?」


 サクラの呟きをアイリスは首を縦に振って応えた。ユーキも納得がいった様子で先を促す。


「『火は微細にて希薄、いつか来る終焉の象徴にして再生の象徴だが、単体で考える場合においては、終焉や破壊の意味合いが強い。終着点であるが故に他の三元素よりも軽さが生じる』――――火の魔法に魔力を変換しすぎた。体内の魔力の枯渇」


 その言葉にユーキの顔へ視線が集まる。その意味をユーキ自身も理解していた。


「ユーキさんの時と症状が似てない?」

「俺に起こった症状が、吸血鬼だと別の症状になるってことはあり得るかも。ウンディーネはどう思う?」

『そうですね。ユーキさんの症状を見ていないからわかりませんが、筋は通っています。実際にみなさんは、魔力を取られたことがありますよね?』


 ユーキの脳裏に黒い茨が浮かんだ。抱え込んで運んだサクラとマリーも茨こそ見ていないものの、魔力を取られた脱力感に身に覚えがあるのか、お互いに目を合わせて同時に頷いた。


『ユーキさんが背負っていた時に、私も魔力を奪われました。吸血せずに魔力を奪い取れるというのが不思議ではありますが、それは置いておきましょう。魔力を補填するのが第一条件であることは明らかです。後は()()()()()()()使って行うかが大切です』

「方向性は見えたんだ。とりあえず、片っ端から調べようぜ」


 マリーの言葉にユーキとサクラが頷くが、アイリスが手を上げて待ったをかける。


「錬金術に関する棚。ほとんど空っぽ」

「何で!?」

「司書さんに聞いたら、『珍しく人が来ないんで、アラバスター商会に頼んで虫干しに出してしまったぞ』だって」


 全然似てない声真似をしながらアイリスが答えると、三人の上がったやる気が一瞬にして下火になる。

 万事休すと思った矢先にマリーは意を決して立ち上がった。その顔には覚悟の二文字が刻まれていた。


「奥の手だ。姉さんに相談しよう」

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